閑話Ⅰ:紅茶戦争と一杯のココア
【閑話Ⅰ:紅茶論争】
※注意※
この話は本編の息抜き用・完全ギャグ回です。
登場人物の一部に深刻なキャラ崩壊が発生しますが、
作者は至って真面目です(たぶん)。
シリアスと政治と恋愛の合間にお届けする、
“学院カフェテラスの戦場”──
推しの人格が一時的に崩壊しても、温かい目で見守ってください☕
昼下がりの学院カフェは、いつになく騒がしかった。
窓から柔らかな陽光が差し込み、香ばしい紅茶の香りが漂う。
――本来なら、穏やかな昼休みのはずだった。
「紅茶は王家御用達の茶葉が一番だ。君にはこれがふさわしい」
アランが自信満々に差し出したカップ。
「いや、味が強すぎるだろ。リディアにはもっと繊細な香りが似合う」
即座にルカがツッコミを入れる。
「繊細すぎて香りしかしねぇ紅茶なんて飲み物じゃねぇ!」
カイルが庶民派の意地を見せ、ミルクをどぼどぼと注ぎ始めた。
「茶葉の抽出温度で成分が変わりますよ。実験してみませんか?」
エリオルが湯温を測る魔道具を取り出す。
「……私は水で十分です」
セラフが淡々と呟き、全員の動きが一瞬止まる。
「お前は黙っててください」
全員の声が見事に揃った。
テーブルの上には、湯気を立てるカップが五つ。
紅茶の香りよりも、プライドのぶつかり合いの方が濃かった。
その中心で、リディア・アルヴェーヌは優雅な笑みを浮かべながらも、
内心では深い溜め息をついていた。
(これが……王国の未来を担う人材……?)
議論は次第にヒートアップしていく。
「茶葉は産地が命だ!」
「いや、抽出時間が全てだ!」
「砂糖を入れるのは邪道だ!」
「それは文化の違いだろ!」
「戦争だな」
「誰が言ったんですか今の!?」
カフェ中の客が振り返る。
店員は完全に固まり、厨房では「……またあの人たちだ」とささやかれていた。
リディアはついに、両手を机に置いて立ち上がった。
紅茶の香りに包まれながら、静かに――しかし確実に、堪忍袋の緒が切れる。
「……もうっ!! 私はココア派ですっ!!」
瞬間、時間が止まった。
アランはカップを落としかけ、
ルカは「論点が……!」と頭を抱え、
カイルは即座に立ち上がり「ココア買ってきます!!」と叫んだ。
セラフはわずかに笑みを浮かべ、「純粋で、温かい。……貴女らしい」と呟く。
エリオルは静かにメモを取った。「砂糖比率の魔力安定値を……」
背後では、ミリエルがそっとため息をついた。
「お嬢様、また恋愛戦線を拡大なさいましたわね……」
リディアは頬を赤く染め、両手でココアのカップを包むように持った。
「……忘れなさい」
その瞬間、アランがぼそりと呟く。
「……甘いの、好きなんだね」
ルカが即座に肘で突く。「殿下、それ今言うタイミングじゃない」
「おっと……」
どこかで椅子が倒れる音がして、再びカフェに喧騒が戻る。
――こうして学院は、一時的に“紅茶派”と“ココア派”に分裂したという。
なお、その混乱は午後の講義開始まで続いたらしい。
* * *
To be continued.




