閑話XXI:甘党一家、王太子を焼く
ホワイトデー当日。
学院の厨房。
「……静かだな」
ルカが言う。
「嵐の前だからだろ」
セラフが冷静に返す。
そしてその中心に。
王太子アラン・セリーヌ・アスティリア。
エプロン姿。
真顔。
目の前には、マロングラッセ。
「色が濃いですね」
ユリウスが観察する。
「焦げていない」
「まだ言うか」
ルカが笑う。
「殿下、砂糖は何杯?」
「……七」
「父上基準だ」
ユリウスが満足げに頷く。
セラフがぽつり。
「通常の三倍ですね」
「戦闘力みたいに言うな」
◇◇◇
中庭。
リディアが呼び出された。
「何かしら」
そこには、妙に姿勢のいい王太子。
後ろには、野次馬三人。
「……お前たち、隠れる気あるか?」
「ない」
即答。
「返礼だ」
アランが箱を差し出す。
「義務ではない」
そして小声で続ける。
「俺が渡したいからだ」
ルカが後ろでニヤける。
セラフが静かにメモを取る。
ユリウスは両手を組んで見守っている。
リディアは箱を開ける。
「……色が深いわね」
「焦げていない」
三度目。
「いただきます」
一口。
沈黙。
アランの顔が強張る。
「……甘い」
「甘いか」
「好きよ、この甘さ」
ぱっと、空気が軽くなる。
ユリウスが嬉しそうに言う。
「父上は激甘党ですから」
「それ言うな」
ルカが笑う。
「王太子、尊厳は無事か?」
「無事だ」
「耳赤いぞ」
「気のせいだ」
セラフが締める。
「成功ですね」
アランはそっぽを向いたまま言う。
「……多少焦げても問題ないらしい」
「焦げてる前提やめろ」
リディアがくすくす笑う。
「ありがとう、殿下」
それだけで。
王太子の尊厳は、完全回復した。
◇◇◇
「来年はどうするんですか?」
ユリウスが無邪気に聞く。
「来年!?」
アランが固まる。
ルカが肩を叩く。
「糖度、倍な」
「やめろ」
セラフが静かに言う。
「来年は成功率四割増しですね」
「数字で追い詰めるな」
リディアが微笑む。
「来年も、楽しみにしてるわ」
その一言で。
王太子はまた、来年の厨房行きを確定させたのだった。




