第百七話:似ているのは、誰だ
応接間。
討議前の緊張が、薄く張り詰めている。
そんな中。
「ところで」
ユリウスが、ふと思い出したように口を開いた。
「私は、父上と母上、どちらに似たのでしょうか」
沈黙。
全員が一斉に彼を見る。
アランが真顔で言った。
「……今か?」
「今です」
即答。
悪気ゼロ。
リディアは額を押さえた。
「ユリウス……」
「気になっておりました」
真剣そのもの。
セラフが静かに観察する。
ルカは腕を組む。
そして。
「外見は父上だろ」
あっさり言った。
全員が頷く。
異論ゼロ。
黒髪。
深い蒼の瞳。
整った輪郭。
そこに座っているのは、
若き日のレオナールそのものだった。
「……完全にコピーだな」
アランが呟く。
「若返っただけだ」
ルカが淡々と追撃。
リディアは少し苦笑した。
「……そうね」
否定できない。
否定しようもない。
ユリウスは少しだけ首を傾げる。
「では私は、父上似なのですね」
「顔はな」
ルカが即答。
「中身は別だ」
「どう別でしょう」
真面目に聞くな。
アランが口を開く。
「抱え込み癖は父上だ」
リディアが微かに目を伏せる。
「だが」
アランは続けた。
「他人のために動くのを躊躇わないところは、母上だな」
ルカが顔をしかめる。
「だから母上やめろ」
「事実だろ」
「……」
否定しきれない顔。
セラフが静かに補足する。
「精神の柔らかさは母上寄りですね」
「俺に柔らかさあるか?」
「ありますよ」
即答。
ユリウスが少し笑う。
「では私は、外見は父上、中身は母上……でしょうか」
リディアは首を振った。
「違うわ」
全員が見る。
「あなたは、あなた」
穏やかな声。
「外見が似ていても、心は別物よ」
ユリウスは一瞬だけ黙った。
それから、静かに言う。
「……嬉しいです」
その表情は。
確かにレオナールに似ている。
けれど。
そこに浮かぶ感情は、まったく違う。
アランが、ゆっくりと言う。
「強いて言えば」
視線をまっすぐ向ける。
「お前は、“守る”という点では二人に似ている」
空気が少しだけ引き締まる。
ユリウスは、静かに頷いた。
「……それなら」
小さく笑う。
「悪くないですね」
重さが、ほんの少しだけ溶けた。
討議前。
戦いの前。
それでも。
この時間は、本物だった。




