第百五話:甘党一家、血統を整理する
王立政治学院・応接間。
重い沈黙。
テーブルを挟んで座るのは、
アラン。
リディア。
ルカ。
ユリウス。
そしてなぜかセラフ。
「……確認したい」
口火を切ったのはアランだった。
「なぜユリウスは、リディアを“父上”、ルカを“母上”、そして俺を“伯父上”と呼ぶ」
空気が止まる。
ユリウスは真顔だ。
「事実だからです」
「その“事実”の説明を求めている」
アランの声は低い。
王太子ではなく、ただの困惑した十五歳の少年の声だ。
リディアが小さく息を吐いた。
「……そろそろ、整理が必要ね」
ルカが目を逸らす。
「言うのかよ」
「あなたが先に“王女だった”って言ったでしょうが」
「それ蒸し返すな」
セラフが静かに紅茶を置いた。
「順を追いましょう」
冷静。観測者モード。
「まず前世の構図です」
指で空中に図を描く。
「前皇帝、フリードリヒ・エルンスト・アスティリア」
アランの瞳がわずかに揺れる。
「……その名は」
「あなたの前世です」
さらりと言うな。
ルカがぼそっと。
「重いな」
セラフは続ける。
「フリードリヒ陛下には妹が一人いました」
ユリウスが頷く。
「エリザベート」
ルカが顔をしかめる。
「俺な」
「あなたです」
セラフ容赦なし。
「そしてそのエリザベートの夫が」
視線がリディアへ。
「帝国宰相、レオナール」
リディア、静かに目を伏せる。
「……私の前世」
アランの呼吸が止まる。
「……待て」
指がこめかみに当たる。
「つまり」
セラフが淡々と続ける。
「ユリウスは、レオナールとエリザベートの実子」
ユリウスはまっすぐアランを見る。
「だから父上であり母上です」
「……俺は?」
「母上の兄君です」
沈黙。
完全なる沈黙。
「……伯父上、です」
アランが天井を見た。
「頭が追いつかん」
ルカが腕を組む。
「俺もだ」
リディアが小さく笑う。
「血縁は前世の話よ。今世では違う」
ユリウスが首を振る。
「ですが、魂は覚えています」
その言葉は、冗談ではない。
「父上の顔は知りません。母上の記憶もありません」
静かに。
「それでも、分かるのです」
応接間の空気が変わる。
セラフが補足する。
「血ではなく、関係性の記憶」
アランがゆっくり視線を落とす。
「……フリードリヒ、か」
自分の前世の名を口にする。
どこか遠い響き。
「伯父上」
ユリウスが呼ぶ。
その声音には、打算も演技もない。
ただ、敬意。
アランは目を閉じる。
そして、ゆっくり息を吐いた。
「……ややこしい」
「ええ」
リディアも頷く。
「非常に」
ルカが肩をすくめる。
「甘党一家、複雑すぎだろ」
セラフが淡々と締める。
「整理しますと」
指を折る。
「前世では帝国中枢再集合」
「今世では王国政治中枢」
「血統派が騒ぐのも当然」
全員、沈黙。
そして。
ユリウスがにこりと笑う。
「ですが、僕はただ」
一拍。
「父上と母上が幸せなら、それで良いのです」
ルカが吹き出す。
「お前な」
アランが小さく笑う。
「……ややこしいが」
リディアを見る。
「悪くはない」
家系図はカオス。
だが、関係は明確だった。




