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第一章 第十一話:運命の盤上



 夜明け前の王都は、まだ深い霧に包まれていた。

 だが、宰相府の執務室だけは例外だった。

 蝋燭の光が紙の海を照らし、インクの匂いが漂っている。


 リディアは机に広げられた報告書を静かに読み進めた。

 いくつもの署名と印章。その中に、見覚えのない紋章が混ざっていた。

 それは新興派閥――“黎明派”の印。

 王政改革を掲げながら、裏では商会や貴族たちを糸で結んでいる存在だ。


「……また、新しい動き、ですか。」

 その声にアランが振り向く。

 彼の表情には疲労が滲みながらも、瞳の奥には静かな炎が宿っていた。


「彼らはまだ小さい。しかし、放置すれば“駒”から“手”になる。」

 アランは言葉を選びながら、視線を地図へ落とす。

 王都を中心に、複数の印が赤く記されていた。

 まるで見えない蛇が、王国の血脈を這っているようだった。


 リディアは一つ息をつき、背筋を伸ばした。

「殿下。彼らの資金源を辿れば、いずれ誰が糸を引いているか分かります。」

「危険だぞ。」

「承知の上です。私は、“政治”を選んだのですから。」


 その一言に、アランの胸が静かに揺れる。

 王族である彼には、誰よりも“政治の重さ”が分かっていた。

 だが彼女の声は、恐れよりも確信を帯びていた。

 まるで――この瞬間のために生まれ直したように。


 彼女の視線が書類から離れ、窓の外へ向けられる。

 夜明けの空が淡く染まり始め、鳥の鳴き声が微かに響いた。

「……暁ですね。」

「そうだな。」

 アランはその横顔に一瞬、見惚れてしまう。

 真実を見据える瞳。

 触れれば壊れてしまいそうで、しかし誰よりも強い光。


「あなたは、理想を追う人だ。」

「殿下も、そうでしょう?」

「いいや。私は――あなたほどまっすぐにはなれない。」


 短い沈黙。

 互いに視線を外したまま、蝋燭の炎だけが小さく揺れる。

 それは、まだ名もない感情のようだった。


 外の鐘が一度、静かに鳴る。

 宰相府の一日が始まる合図。

 リディアは新しい羊皮紙を手に取り、ペン先を整える。


「始めましょう。次の一手を。」

 アランは一瞬だけ笑みを見せ、頷いた。


 盤上の駒が再び動き出す。

 “理想”と“現実”、そして“恋”という名の運命が交差する――

 新たな戦いが、いま幕を開けた。


 アランとの打ち合わせを終え、リディアが書庫の外に出たときだった。

 廊下を歩く足音がひとつ、自然に彼女の後ろへ重なる。


「……歩幅が、合っている?」


 ふと気づき、横をちらりと見ると、ルカがいつの間にか隣を歩いていた。

 彼は何も言わない。ただ、ほんの少し歩調を緩め、リディアの速度へそっと合わせる。


「宰相府は、広いから……迷わないように」


 理由になっているような、いないような呟き。

 それでも彼の声は、朝の冷たい空気の中で妙に柔らかく響いた。


 アランとの議論で張り詰めていた心が、不意にほどけていく。


「ありがとう、ルカ」


 そう言うと、彼は視線を前に向けたまま、小さく息をのむように肩を揺らした。


「……あなたが無事なら、それでいいから」


「え?」


「なんでもない」


 その瞬間だけ、蝋燭の火が揺れた。

 まるで、彼の胸の奥で灯った言葉を隠すように。


 リディアは気づいていない。

 ルカの歩幅が“合わせている”のではなく、

 “寄り添いたい”という無意識の表れであることに。


 けれど、その静かな想いは確かにそこにあった――

 誰にも気づかれぬまま、朝の光に溶けていく。


* * *


 To be continued.

お読みいただきありがとうございます!


新章「運命の盤上」では、リディアとアランが再び“政治の渦”に踏み込む回でした。

理想と現実、そして心に芽生えつつある感情――

それぞれの想いが盤上で交錯し始めています。


次回は、黎明派の動きが具体的に浮かび上がり、

リディアが初めて“選ばされる側”に立たされる場面が描かれます。

彼女が選ぶ一手は、国の運命を変えるのか、それとも――。


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