第九十八話:資質の名を問う
講堂は、静まり返っていた。
学院の生徒だけではない。
王都の上層貴族、評議会の関係者、旧帝国派の重鎮までが席を埋めている。
中央に立つのは――
アラン・セリーヌ・アスティリア。
その視線は、まっすぐ前を向いていた。
◇◇◇
「問いは単純です」
血統至上主義を掲げる老貴族が、杖を鳴らす。
「帝国の正統性は血に宿るのか。
それとも、後天的な資質に宿るのか」
視線が集まる。
ユリウス。
リディア。
そして、アランへ。
「帝国は血で継がれてきた」
「血こそが正統性の証明だ」
「転生などという曖昧な概念で国家を語るな」
ざわめき。
空気が重い。
アランは、一歩前へ出た。
「では問います」
低く、しかしよく通る声。
「血とは何ですか」
ざわり、と場が揺れる。
「血が優れているというのなら、
なぜ歴代の王の中に愚王がいたのですか」
老貴族の顔が強張る。
「血が絶対ならば、
なぜ国は一度滅びかけたのですか」
沈黙。
「血は可能性です。
だが、それを形にするのは意思と判断です」
ゆっくりと、講堂を見渡す。
「私は王家の血を引いている。
だが、それだけで王に値するとは思っていない」
その声は、揺れない。
「王とは責務です。
血ではなく、背負う覚悟によって定まるものだ」
静寂。
「資質とは、生まれではない。
選択の積み重ねだ」
その言葉は、はっきりと響いた。
◇◇◇
リディアは、客席からその姿を見つめていた。
前世では、玉座の横に立っていた。
王を支える立場だった。
だが今。
彼は、自分の足で立っている。
(……強くなったのね)
かつての王の面影が、一瞬重なる。
だが、それは別の存在だ。
前世ではない。
今世のアランだ。
視線が、ふとこちらに向いた。
一瞬だけ、交差する。
その目は問いかけていた。
――これでいいか?
リディアは、静かに微笑んだ。
(ええ。
あなたは、あなたの政治をして)
もう支えるだけの立場ではない。
並び立つのだ。
◇◇◇
討議は終わった。
決着はついていない。
だが――空気は変わった。
講堂を出る人々のざわめきの中、
ユリウスがぽつりと呟く。
「……やっぱり伯父上は凄いですね」
リディアは少し目を丸くし、
そして柔らかく笑った。
「ええ。自慢の王太子よ」
遠くで、アランが振り返る。
その顔には、迷いがなかった。
血ではない。
資質でもない。
それを選び取る意思こそが、
王を王たらしめる。
そして。
リディアは思う。
(政治は孤独ではない)
甘いものを囲む時間も。
川の字で眠る夜も。
守りたいと願う小さな幸福も。
それらすべてが、
国家の礎なのだと。
風が吹く。
塔の旗が揺れる。
過去は消えない。
だが、未来は選べる。




