表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
122/124

第九十五話:血は盾か、鎖か


 王都より、正式な書簡が届いた。


 封蝋には、旧アスティリア帝国の紋章。


 消えたはずの双頭の鷲が、赤い蝋の中で不気味に光っている。



「……ずいぶんと、丁寧ね」



 リディアは淡々と封を切った。


 文面は穏やかだ。


 礼儀正しく。

 理知的で。

 非難の言葉は一つもない。


 だが。



『帝国正統血統の確認を希望する』

『現存する直系男子の身分保障について協議を』



 その一文だけで、十分だった。



「……来たか」



 ルカが壁にもたれて腕を組む。


「思ったより早いわね」

「噂が王都まで行ってりゃ当然だろ」



 ――帝国の皇子がいるらしい。


 ――正統血統だとか。


 ――王位に影響する存在だとか。



 火種は、もう広がっている。



◇◇◇



 数日後。


 学院に、王都の使者が現れた。



「ユリウス殿下」



 その呼び名で。


 空気が凍る。



 ユリウスは、わずかに瞬きをした。



「……その呼称は、不要です」



 静かな声だった。



「私は現在、学院生です」



「しかし、貴殿は帝国の――」



「帝国は、既に滅んでおります」



 はっきりと。


 迷いなく。



「そして、この国には王太子殿下がいらっしゃる」



 一瞬だけ。


 視線がアランへ向いた。



「私の席は、どこにもありません」



 使者が眉をひそめる。



「それでも血は残ります」

「血は事実です」



 ユリウスは頷いた。



「ですが、それが私の望みではありません」



 場が、静まる。



「私が望むのは」


 ほんの少しだけ。

 声が柔らぐ。



「家族として、生きることだけです」



 使者の顔に、明確な困惑が浮かんだ。



「……それでは国家が――」

「国家は、血で回るものではないでしょう」



 淡々と。


 だが揺らがない。



「資質ある者が、責任を負う」

「それだけです」



 それ以上は語らず。


 ユリウスは一礼した。



「ご足労ありがとうございました」



 会話は、そこで終わった。



◇◇◇



 夜。


 王都への報告書がまとめられる。



「血統は確か」

「だが本人に野心は見られず」



 机の向こう。


 薄暗い部屋。



「……資質、か」



 低い声が呟く。



「血ではなく、資質を選ぶ時代だと?」



 くつり、と笑う。



「資質など、作れる」



 書類が閉じられる。



「だが血は、作れぬ」



 双頭の鷲の紋章が、

 闇の中で静かに光った。



 水面は、まだ静かだ。


 だがその底で。



 確実に、何かが動き始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ