表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
120/124

第九十三話:静かな盾


 学院会議室。


 帝国皇子の存在が公になって以降、評議は連日のように紛糾していた。


「帝国の正統後継者が学院内にいる以上、我々は保護義務を――」

「いや、王国の政治問題に発展しかねん!」

「引き渡し要求が来ればどうする!」


 声が荒れる。


 机を叩く者までいる。


 その中央で、ユリウスはただ静かに立っていた。


 感情を見せない。


 深い蒼の瞳だけが、淡々と場を見渡している。


「……申し上げます」


 低く落ち着いた声。


 空気が、わずかに変わった。


「既に王国には王太子殿下がいらっしゃいます」


 視線が自然とアランへ向く。


「私の立場は、帝国においても失効しています。正式な立太子はなされておりません」


 ざわ、とどよめき。


「私は、王位にも皇位にも関心はありません」


 はっきりと。


「望むのは、穏やかな生活のみです」


 静まり返る室内。


 そのとき。


「――その件について、補足を」


 扉が開いた。


 現れたのは、セラフ・ノア=リュミエール。


 整った礼服姿。


 穏やかな微笑。


 しかし瞳は冷えている。


「リュミエール伯爵家は、アルヴェス令嬢の後見を引き受けております」


 静かな声。


 だが、よく通る。


「従って、彼女に付随する政治的問題は、当家も看過できません」


 数名の評議員が顔を見合わせた。


「帝国との外交問題に発展する可能性があるならば、尚更」


 ゆっくりと視線を巡らせる。


「軽率な発言は、王国の信用を損ないます」


 柔らかい口調。


 だが刃のように鋭い。


「ユリウス殿が望んでいるのは、王位ではなく、静かな生活です」


 一瞬、ユリウスを見る。


 そして続ける。


「それを騒ぎ立てること自体が、火種になる」


 沈黙。


 反論が出ない。


 完全に論を封じた。


 アランが小さく息を吐く。


「……学院は政治の縮図だ。だが、煽るための場ではない」


 静かに結論づける。


「この件は、外部への公表を禁じる。以上だ」


 評議は終わった。


◇◇◇


 廊下。


 ユリウスが足を止める。


「……ありがとうございます」


 セラフは首を振った。


「礼は不要です」


「父上のためですか?」


 一瞬だけ。


 ほんの一瞬だけ。


 セラフの目が柔らいだ。


「彼女は学院の貴重な戦力ですから」


 それだけ言って、歩き出す。


 背筋はまっすぐ。


 どこまでも貴族らしく。


 廊下の端で見ていたルカが、ぽつりと言った。


「……相変わらず、腹黒いなあいつ」


「聞こえていますよ」


 振り返らずに返す声。


 空気が、ようやく軽くなった。


 帝国皇子騒動は、ひとまず静まった。


 だが。


 波紋はまだ、水面下に残っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ