第十話:真実の輪郭
王立学院を卒業して数日後。
リディアは、王政監査局の臨時補佐として召集された。
理由は――以前、彼女が学院で発見した“偽署名事件”に再び動きがあったからだ。
王城の一室に集められたのは、財務局、軍務局、王家顧問ら十名あまり。
重苦しい空気の中で、リディアは静かに書類をめくっていた。
「――殿下の署名が確認された以上、これを隠すわけにはいかぬ。」
「だが、これを公にすれば王政への信頼が揺らぐ!」
声が交錯する。
誰も真実を見ようとせず、責任の所在ばかりを押し付け合っていた。
リディアは深く息を吸い、手元の帳簿を開く。
「失礼します。この支出報告、三年前の帝国式書式で作成されています。」
室内のざわめきが止まった。
リディアの指先が、日付と符号をなぞる。
「王国では二年前に新式へ移行しています。つまり、これは王都の会計士が記したものではありません。」
その場にいた者たちの顔が強張る。
王政監査長グラーフ侯の眉が、わずかに動いた。
「……では、君は何を言いたい?」
「誰かが殿下の名を借り、旧式の帳簿を流用して“証拠”を作ったのです。」
「証拠捏造――だと?」
「はい。そしてその意図は、改革派を失脚させること。」
グラーフ侯の目が細められる。
だが、リディアは怯まなかった。
「私は真実を申したまでです。」
静寂。
その重さが、真実の価値を証明するかのようだった。
* * *
夜。
リディアは監査局の書庫で資料を整理していた。
蝋燭の灯が揺れ、紙の匂いが漂う。
「――君は、どうしてあんな危険な指摘をした?」
背後から、低い声。
振り向けば、そこにアランがいた。
「殿下。真実を歪めたままでは、国は腐ります。」
「だが、それを暴けば誰かが血を流す。」
「それでも、見なかったふりはできません。」
アランはわずかに笑った。
その笑みは、感嘆とも諦めともつかない。
「……本当に、君は誰にも似ていないな。」
その言葉が、妙に胸に残った。
彼が去ったあと、リディアは窓の外を見つめる。
月が王都を照らし、長い影を伸ばしていた。
「――真実の輪郭が、見え始めた。」
だがその瞬間、背後の廊下で足音が響く。
振り返ると、闇の中に誰かの気配があった。
静寂の王城で、確かに“蛇”が目を覚ましたのだ。
* * *
To be continued.
お読みいただきありがとうございます!
リディアが監査局に臨時召集され、ついに“政治の闇”へ踏み込む回でした。
彼女の冷静な観察力と信念が光る一方、アランとの会話にも微かな変化が――。
そして最後の「足音」は、物語が新たな局面に入る合図です。
次回、《蛇の牙》では、リディアが王都の陰謀の中心へと迫ります。
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