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第九十一話:父の誇り、母の体温

「……父上は、僕の自慢ですから」


 その言葉が、胸の奥にじんわりと沈んでいく。


 誇らしげで。

 真っ直ぐで。

 少しだけ照れくさい顔。


 ああ、本当にこの子は――。


 守りたいな、と。

 本気で、そう思った。



「……で」



 空気をぶった切る声。



「いつまで親子劇場やってんだお前ら」



「っ!?」



 振り向く。


 いた。


 いつものように、気配ゼロで。


 木陰に寄りかかりながら、パンをもぐもぐしているルカ。



「ちょ、いつからいたの!?」

「最初から」



 最悪である。



「……いい話っぽかったから黙ってたけど」

「けど?」

「腹減った」



 知るか。



 こっちは今ちょっと感動シーンなのよ。



「父上」

「なぁに」

「この方、空気読めないんですか?」

「読めないわね」



「聞こえてるからな」



 ルカがずかずか近づいてくる。


 相変わらず遠慮ゼロ。


 そして当然みたいにリディアの隣に立つ。



 ――その瞬間。



 ユリウスが、無意識に。



 す、と。



 ルカの服の裾を掴んだ。



「……?」



 ルカが視線を落とす。



「……なんだ」



「……いえ」



 掴んだまま離さない。



 きゅ。



 子供みたいに。



「……母上の隣、落ち着くんです」



「ぶっ!?」



「誰が母上だ!!!」



「でも」



 きょとんとした顔。



「なんか……ここ、安心します」



 胸の奥を指差す。



「父上は“すごい人”って感じで」



 ちら、とリディアを見る。



「母上は“帰ってきた”って感じがするので」



「…………」



 ルカ、完全沈黙。



 怒鳴るタイミングを失う。



「……無自覚タチ悪いなコイツ……」

「褒め言葉ですか?」

「違ぇよ」



 でも。



 振り払わない。



 そのまま歩き出すあたりが、ルカである。



◇◇◇



「ほら行くぞ」

「どこへ」

「甘いもん」

「早いわ話が」



 当然みたいに。


 当然みたいに。



 今度は。



 ルカが自然にユリウスの頭をぽん、と撫でた。



「……腹減ってんだろ」

「……はい」



 その一撫でで。



 ユリウスの顔が、ぱっと明るくなる。



 あまりにも分かりやすく。



「……」



 リディアはそれを見て、少しだけ笑った。



(ああ……この子……)



 父に向けるのは尊敬。


 母に向けるのは甘え。



 種類が、違う。



「父上も行きましょう」

「ええ」



 そして。



 当たり前みたいに。



 ユリウスはルカと手を繋いだ。



「は?」

「……?」

「なんで手繋いでんだお前」

「迷子防止です」

「十五歳が言う台詞かそれ」



 でも。



 離さない。



 ぎゅ。



 完全に子供。



 それを見て。



「…………」



 廊下の向こうでアランが固まった。



(なぜあっちが“親子”に見えるんだ……?)

(俺の立ち位置はどこだ……?)



「おい王子」

「っ!?」

「ケーキ食う?」

「行く」



 即答だった。



◇◇◇



 三人並ぶ。



 真ん中にリディア。


 片側にルカ。

 その腕にくっつくユリウス。


 反対側にアラン。



 どう見ても。



 母+息子+親戚+父。



 みたいな謎構図。



「今日はいちごな」

「またショートケーキ?」

「文句あんの?」

「ないです」



 ユリウスが即答。



「母上が選んだ甘いもの、好きです」



「だから母上やめろ!!!」

「照れてます?」

「照れてねぇ!!!」



 真っ赤。



 全力否定。



 でも。



 歩幅は、ちゃんとユリウスに合わせていた。



 夕陽が廊下を赤く染める。



 政治も。

 陰謀も。

 帝国も。



 全部どうでもよくなるくらい。



 ただ。



 家族みたいな時間が、そこにあった。

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