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第八十八話:甘党一家観察日記


■川の字の朝は、だいたい地獄


 翌朝。


 アランは真面目な顔で寮の廊下を歩いていた。


 昨夜は眠れなかった。


 “父上”と呼ばれたリディア。

 泣きながら縋る少年。

 自分の知らない時間。


 胸の奥が、ずっとざわついている。


「……確認するだけだ」


 様子を見るだけ。

 それだけのはずだった。


 コンコン。


「リディア、起きているか?」


 返事がない。


「……入るぞ」


 扉を開ける。


 そして。


 固まった。


「…………は?」


 ベッドの上。


 川の字。


 中央にリディア。

 右にルカ。

 左に黒髪の少年。


 三人、ぴったり密着して爆睡中。


「……………………は?????」


 脳が処理を拒否。


(なぜ同衾している?)

(なぜそんな自然体なんだ?)

(というか距離が近すぎないか?)


 さらに。


 リディアが寝返りを打ち。


 無意識に。


 両側の頭を同時に撫でた。


 ぽん、ぽん。


 完全に親。


「…………」


 アランはそっと扉を閉めた。


「……俺はまだ夢の中らしい」


 尊厳、HPゼロ。




■寝ぼけた本音は凶器です


「……ん……」


 朝。


 ユリウスが目を覚ます。


 すぐ隣に温かい体温。


 無意識に服を掴む。


「……父上……いかないで……」


 幼い声。


 縋る指。


 痛いほどの本音。


「……」


 リディアは何も言わず。


 黒髪をそっと撫でた。


「ここにいるわ」


 柔らかく笑う。


「どこにも行かない」


「……ほんと……?」


「ええ」


 安心した顔で、また眠る。


 その様子を見ていたルカがぼそっと言った。


「……お前、完全に父親の顔してんな」


「……うるさい」


 否定は、しなかった。




■母は否定するほど母になる


 同日、朝食。


「……なんでお前が作ってんだよ」


 アランが呆然と呟く。


 台所。


 エプロン姿のルカ。


「腹減ったから」


「それで三人分?」


「ついで」


 並ぶ皿。


 焼きたてパン。

 スープ。

 甘いココア。


 そして。


「……砂糖、何杯入れたのこれ」

「知らん」


 激甘仕様。


 どう見てもリディア専用。


「…………」


 アランが額を押さえる。


「……なぜ君が一番家庭的なんだ……」


「は?」


 その時。


 ユリウスがにこっと笑った。


「母上、料理上手ですね」


「ぶっ!!!!」


「だから違ぇって言ってんだろ!!!」


 真っ赤。


 全力否定。


 だが。


「ありがとう、ルカ」


 リディアが普通に微笑む。


「……っ」


 耳まで赤くなるルカ。


 その光景を見て。


 アランは悟った。


(ああ……勝てない……)


 家庭力という名の圧倒的敗北だった。




■帝国皇子、爆弾投下


 数日後。


 学院中がざわついていた。


「帝国の皇子がいるらしい」

「正統後継者だとか」

「保護すべきでは?」


 騒ぐ貴族派。


 その中心で。


 ユリウスは小さくため息を吐いた。


「……だから」


 静かな声。


 なのに場が凍る。


「既にこの国には王太子殿下がいらっしゃるでしょう」


 アランを見る。


「僕の席はありません」


 淡々と。


「それに」


 少しだけ笑う。


「王位にも皇位にも興味はないです」


「では何を望む!?」


 叫び。


 ユリウスは即答した。


「父上と母上と、三人で暮らすこと」


 沈黙。


 全員、ぽかん。


「……以上です」


 それだけ言って、さっさと去っていく。


 残された貴族たち。


「……え?」

「それだけ?」

「帝国後継者の願いが?」


 あまりにも小さく。


 あまりにも強い望み。


 少し離れた場所で。


 リディアは小さく笑い。


 ルカは頭を掻き。


 アランは。


「……なんなんだこの家族は……」


 本気で頭を抱えた。



 甘党一家、今日も平和(?)である。

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