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第七十五話:ただ、あなたの隣に立ちたかった

帝国宰相レオナール・ヴァイスは、いつも一人だった。


広い執務室。

山のような書類。

窓の外には、雪の残る灰色の空。


机の上には、湯気の立たない無糖茶。


それが、彼の日常だった。


「……次を」


淡々と告げる声。


感情を削ぎ落とした声音は、いつからか“氷の宰相”と呼ばれていた。


切り捨てる。

迷わない。

情に流されない。


それが、帝国にとって最善だから。


だが。


その評価の裏で、必ず囁かれる言葉がある。


――所詮は子爵家上がりの成り上がり。

――血が違う。

――貴族の器ではない。


聞こえないふりをしても、耳には入る。


(……慣れている)


胸は痛まない。

痛んでは、いけない。


だから今日も無糖茶を啜る。


苦い。

だが、それでいい。


甘いものなど、似合わない。


宰相は、強くあらねばならないのだから。


「レオナール様」


やわらかな声がした。


顔を上げる。


そこに立っていたのは、王妹エリザベート・アスティリアだった。


「……殿下」


「そのままで」


微笑まれる。


「また、無糖茶なのですね」


「……ええ」


「苦くありませんか?」


「慣れました」


「私は嫌いです」


きっぱりと言い切る。


「こちらをどうぞ」


ことり、と新しいカップが置かれる。


甘い香り。


ロイヤルミルクティー。


一口飲み、思わず固まった。


「……甘い」


「砂糖、多めにしておきました」


「どうして分かったのですか」


「無糖茶を飲むとき、少しだけ眉間にしわが寄るんですもの」


逃げ場がなかった。


見透かされている。


肩の力が抜ける。


「……甘いものは、嫌いではありません」


「ふふ。知っていました」


その笑顔を見て、思う。


この方の前では、宰相でなくていい。


ただのレオナールでいられる。


それが、どれほど救いだったか。


後日。


エリザベートは兄王に進言した。


「レオナール様と結婚したいのです」


「理由は?」


「彼の地位を確固たるものにするためです」


それは建前。


本音はただ一つ。


あの人の隣にいたい。


それだけだった。


「覚悟はあるのか」


「はい」


「私の人生と引き換えでも構いません」


それが、二人の始まりだった。


現在。


甘いココアにマシュマロを浮かべ、幸せそうに飲むリディアを見て、ルカは小さく笑う。


「……それだけは変わらねぇんだな……」


前世も、今世も。


甘党なところは同じ。


胸の奥が少しだけ痛んで、それでも温かい。


きっと俺は今も。


あんたの幸せを願ってる。


ただ、それだけなんだ。

いつもお読みいただきありがとうございます。

ついに、二度目の政治は、恋に厳しい、本編100話に到達しました。

……100話???

自分で一番びっくりしています。

学院編から始まって、政治して、陰謀して、燃えて、泣いて、ギャグで尊厳が死んで(主にアランが)、気付けば三桁です。

ここまで読んでくださっている皆さま、本当にありがとうございます。

ブクマ、評価、感想、PV、すべてが励みになっています。

そして記念すべき100話は、物語の原点でもある「前世」の話になりました。

リディアの前世、レオナール。

ルカの前世、エリザベート。

この二人の関係性は、にど恋という物語の土台そのものです。

「ただ、あなたの隣に立ちたかった」

たったそれだけの願いが、

時代を越えて、名前を変えて、今世の物語に繋がっていく。

そんなお話を書けたらいいなと思っています。

……とか真面目なこと言ってますが、

この作品、次の話で普通にギャグやったりもするので油断しないでください。

情緒ジェットコースターはいつも通りです。

これからも、リディアたちの恋と政治と時々尊厳崩壊にお付き合いいただけたら嬉しいです。

101話目からも、どうぞよろしくお願いします。

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