表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/99

第九話:夜会に咲く理想と恋


 王都の夜は、光の海のようだった。

 王城の大広間では、政治学院卒業を祝う夜会が開かれている。

 燭台に映る金と紅の衣、流れる弦の調べ、香の混ざる空気。

 その中でリディアは、完璧な微笑みを貼りつけて立っていた。


 貴族たちが語るのは未来でも理想でもなく、権力の重さと派閥の大きさばかり。

 この空気の中で息をするのが、少しだけ苦しかった。


「――辺境の令嬢、リディア・アルヴェス嬢ですね。」


 背後から落ち着いた声。

 振り返ると、深紅の外套を纏った青年が立っていた。

 灰青の瞳、落ち着いた物腰。彼こそ、王太子アラン・アスティリア。


「初めまして、殿下。辺境伯アルヴェス家の三女にございます。」


 礼をとると、彼はわずかに笑った。


「君の噂は聞いている。政治学院の首席でありながら、演説ではいつも民の話をする――と。」


「理想だけでは国は動きません。ですが、理想がなければ、人は動けません。」


 そう言うと、アランの目がわずかに和らぐ。


「……良い言葉だ。君のような者が増えれば、この国はもう少し穏やかになるかもしれない。」


 その声は不思議と静かで、暖かかった。

 けれどリディアはすぐに気を引き締めた。

 王太子は、この国の中心。政治的駆け引きの象徴でもある。

 “情”で接してはいけない相手だ。


 ――そう、わかっているのに。


 彼の視線がほんの少し触れるたび、呼吸が浅くなる。

 杯の葡萄酒が、妙に甘く感じた。


 やがて、舞曲が流れる。

 アランが軽く手を差し出した。


「よければ、一曲だけ。」


「……殿下、それは社交辞令で?」


「君が断るなら、それもまた勇気だ。」


 思わず、リディアの口元が緩んだ。

 差し出された手を取ると、彼の手は意外にも温かかった。

 ゆっくりと回るホール。視線が合うたび、何かがほどけていく。


「……君の瞳は、戦う人の色だ。」


「褒め言葉として、受け取っておきます。」


 短い沈黙。

 けれどその沈黙が、妙に心地よかった。


 曲が終わり、二人は礼を交わす。

 アランの微笑みは、どこか寂しげに見えた。


「君が掲げる理想、どうか失わないでほしい。」


「……殿下こそ。」


 その返しに、アランの唇がほんの少しだけ動いた。

 それが笑みだったのか、それともため息だったのか。

 リディアには、わからなかった。


 夜風が吹き抜ける。

 燭の火が揺れ、リディアの胸の奥で何かが静かに芽吹いた。


 ――理想のために生きるはずだった。

 けれど、理想だけでは説明できない想いが、確かにそこにあった。


 * * *


 To be continued.

【あとがき】


 ここまで読んでくださり、ありがとうございます!


 第九話では、リディアとアランが初めて“同じ舞台”に立ちました。

 政治という仮面の裏に、ほんの少しだけ心が触れ合う回です。

 お互いに理想を語りながらも、そこに芽生えた感情をまだ名前にできない――

 そんな“ほんのり”とした距離感を大切に書きました。


 リディアはまだ自分の感情を認められず、アランもまた立場の中で揺れています。

 それでも、二人の間には確かに何かが芽吹き始めています。


 次話《静かな夜の独白》では、リディアの心の声が描かれます。

 理想と感情の狭間で揺れる彼女の姿を、ぜひ見守ってください。


 ブクマや感想で応援していただけると、リディアの理性が少しだけ溶けます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ