墓参り
「久しぶり」
懐かしげに瞳を細めて、親友の眠る墓にむけてそう声をかける。
ほんとうに久しぶりだった。納骨以来だから、2年ぶりになるのかな。遅くなって悪いとおもう。
水を入れた手桶を横に置き、枯れかけた花を持参した袋にしまい、花立に水を注ぐ。
新たに挿すのは花屋で包んでもらった花々。
「どれが良いかなんてわからなかったからさ、店員さんにお任せしたんだ。俺、そういうのが苦手だからさ。あっ、でも、これは俺が選んだ花なんだ」
そういって手で触れるのは1つの花。
「この花、フリージアって言うんだけど、花言葉に『友情』て言葉があるんだ。死んだとしても俺達の友情は変わらない。そんな意味で選んでみたんだけど、どうかな? 気に入ってくれたら嬉しい」
返事はないとわかっていても、やっぱり無いのは寂しいな。
暗くなる気持ちを晴らすように両頬を数回叩く。
「よしっ。今綺麗にするから、じっとしてて」
明るく声をかけて、水で濡らした雑巾で墓を磨く。
雨や風などで付着した土を落とし、雑草を抜き、蜘蛛の巣ができていたためそれも除去する。
そうして綺麗になった墓を前に、やりきったとばかりに額の汗を手で拭う。
「ふぅ~」
普段こんなに動かないからだいぶ疲れた。
これでもまだ若いほうだと思うけど、デスクワークばかりしてた影響かな。明日は筋肉痛にでもなりそうだと、そう考えて笑う。
「悠に知られたらなんて言われるのかな」
墓に目を向けながらそう呟く。
弛んでるな、なんて言われるのかな。
そんな光景が容易くイメージできてしまい笑う。
「悠には言われたくないよ。一番弛んでいたのは悠だったじゃん 人のことは言えないよ」
そんなツッコミをしながら、手桶から柄杓で掬った水を墓にかければ太陽の光に反射して輝く。俺にはそれが生き生きとしてるように感じた。
線香立てのまえに菓子を供える。
「1つは悠が好きだったポテチ、持ってきたんだ。久しぶりに食べるでしょ? きっと飛び跳ねるほど旨いよ。1袋しか用意してないから大事に食べるんだよ。あと1つはご先祖様に」
こちらは何を用意すれば良かったのかわからなかったから、シンプルに和菓子を持ってきた。
喜んでくれると嬉しいな、なんて思いながら線香を焚き、両手を合わせて目をつぶる。
(悠。俺、結婚したんだ。結婚相手は結。そう、悠のお陰で付き合えたあの結だよ。本当は連れて来たかったんだけど、臨月で連れて来れなかったんだ。今度来るときは子供と一緒に挨拶にくるよ)
あの世で驚く悠の姿が思い浮かぶ。「マジか!? おめでとう!」なんて言う声すらも聞こえてきそうだ。
俺は思わず笑ってしまう。
悠へと向けていた意識を悠の祖先へと変える。
(悠がお世話になっております。とても元気で苦労することもあると思いますが、そんな時は叱りつけてください。それぐらいしないと反省しないので)
何処からか「味方しろよ!?」なんて声が聞こえてきそうだが、無視を決め込む。
(でも、嫌わないでやってほしいんです。悠はとても良い奴で、いじめられていた俺を救ってくれた恩人なんです。ほんとうに、俺にはもったいないくらいの親友でした。ご先祖様、俺と悠を出会わせてくれて、ありがとうございます)
その言葉を最後に、目を開く。
「食べ物は回収して、後でいただかせてもらいます」
そう声をかけてから菓子を回収する。
ゴミや手桶など、持参した荷物を手に持った俺は、最後に悠に向けて片手を上げて声をかける。在りし日の日常を思い起こしながら。
「じゃ、また会いにくるよ」