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廃病院④

 一行は建物内部に入ると、まずは入り口のロビーで固まって互いの顔を見合わせていた。


「すいません、今更ですが義人さんに秋義さん、それに朱里さんは分かるのですが、他の方のお名前も教えて頂いていいですか?因みに私は先程も名乗りましたが鬼龍と呼んで下さい」


 叶が真剣な顔をしてそう言うと、秋義の横にいた女性がまずは前に出て来た。


「確かに自己紹介もまだだったね。私は會田(あいだ)奏音(かのん)よ。これでも一応秋義君の婚約者なの」


 そう言ってウェーブのかかった髪をかきあげ微笑を浮かべる會田奏音は、小柄ではあるものの細身でスタイルは良く、どことなく高そうなプライドと同時に気品も感じられ、恐らくどこか良家の出身ではないかと思えた。すると続く様に奏音の横にいた黒髪ショートカットで少し派手で黄色いパーカーが印象的な女性がゆっくりと前に出る。


 出て来た人物は上背こそ奏音より少し高かったが、女性というよりは女の子という方がしっくりくる幼い顔立ちだ。


「私は宇津崎(うつざき)紗奈(さな)です。まだ高校生なんで最年少ですけどよろしくお願いします」


 まだあどけなさが残る紗奈が深々と頭を下げ挨拶を交わすと、叶も柔和な笑みを浮かべて軽く頭を下げた。


 次に今度は朱里の後ろに隠れる様にしていた最も小柄な女性が遠慮がちに顔を覗かせる。


「あ、あの私は朱里ちゃんの幼なじみの緋根谷(ひねや)華月(かづき)です」


 そう言って伏し目がちに会釈し、誰とも目を合わせる事なく再び朱里の後ろに身を隠した華月を見て、叶はまるで小動物のような印象を受けた。

 叶は残った、やたらとがたいのいい男性に目を向けると、視線に気付いた男性が前に出る。


「あとは自分か。私は倉本(くらもと)、義人様と秋義様の付き人兼ボディガードだ」


 言葉少なく倉本は素っ気ない自己紹介の後、すぐに後ろに下がった。


 全員の挨拶を一通り終え、叶は全員の顔を見渡すと自身の手首にある腕時計に目を落とし踵を返した。


「さぁ、自己紹介も終わりましたし日が暮れる前に調査を終わらせたいので行きましょうか」


 叶がそう言って先頭で歩き出すと全員がその後に続いて歩いて行く。

 ロビーを抜けると薄暗い廊下がまっすぐ伸びており、左手には中庭のような場所も見えた。だが今は背の高い雑草が生い茂っており、かなりの年月人の手が入っていない事が伺える。

 そんな荒れた中庭を横目で見ながらコンクリート製の薄暗い廊下を歩いて行く。一行の乾いた足音だけが反響し建物内に響く中、不意に奏音が呟いた。


「昼間なのにここの通路なんでこんなに暗いのよ?しかも歩きにくいし」


 不満を述べる奏音の足元に目をやると、いかにも高級そうなヒールの高いパンプスが黒光りしていた。


 ああ、そりゃ歩きにくいでしょうね――。


 叶は奏音の足元を見ながら少し呆れると、気にする様子もなく前を向いて歩を進める。

 だが奏音の言う通り、廊下には小さな窓が幾つかある程度で入ってくる陽の光だけでは心許なかった。まだ昼過ぎだというのに先頭を歩く叶が懐中電灯で照らさなければならない程建物内は暗く、廊下はひび割れ、所々にはコンクリートの瓦礫等も転がっていた。


「皆さん明かりは持ってますか?」


 叶が振り返り声を掛けるが、全員手を広げ首を横に振るだけだった。

 叶は小さく頭を振るとため息を漏らす。


「仕方ないですね、これ使って下さい。無いよりかはマシだと思いますから」


 そう言ってペンライトが付いたキーホルダーを二つ取り出し義人と秋義に手渡した。


 そうして一行が薄暗い廊下を暫く歩いて行くと上と下に伸びる階段に辿り着く。

 叶が立ち止まり誰に対してでもなく静かに問い掛ける。


「どちらに行きます?」


「下に行こうぜ」


 間髪をいれずに答えた義人に叶は少し驚いたが、すぐに頷き前を向いた。


「更に見えにくくなりますよ、足元気を付けて下さい」


 叶が足元を照らしながらゆっくりと階段を降りて行く。階段を降りた所で降りてくる全員の足元を照らしながら叶が待っていると不快な臭いが鼻についた。


 何これ?カビ臭い――。


 叶が眉をひそめていると、奏音も眉根をよせてハンカチで鼻を抑えながら不快そうに呟く。


「えっ?こんな所進んで行くの?私嫌よ」


 じめじめとした湿気がまとわりつき、強烈なカビ臭さが鼻につく。そんな中、一行の前にはコンクリート製の真っ暗な廊下が伸びており、闇に吸い込まれそうな気さえしてくる。叶は奏音の言う事も少し分かる気がした。

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