表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/87

エピローグ③


 斗弥陀邸での騒動から半年後。


 貸テナントの一室で椅子に腰掛け、叶は電話をかけていた。


「志穂さん、奏音さんから招待状届きましたよね?奏音さんが返信が来ないって言ってましたよ。行きますよね?」


 電話をしながら窓の外に目をやる。眼下に綺麗に並んだ街路樹には新緑が芽吹いており、新たな季節の到来を感じさせていた。


「えぇ、まぁ届いたけどどうしようかなって思っててさ。仕事もあるし、何よりそんなお祝いの席に私なんかが行っても相応しいとも思えなくてさ」


「そんな、式の予定なんてまだ半年以上先ですよ。仕事なんかどうにでもなるじゃないですか。それに奏音さんが招待してるんですから相応しいに決まってるじゃないですか。奏音さんと秋義さんの折角の門出なんだからうだうだ言っても無理矢理迎えに行きますからね」


 遠慮がちに自分を卑下する志穂に対して、叶が少し強い口調で正すと志穂は少し笑った。


「もぉ、わかったわよ。ちゃんと行くから無理矢理引きずって行くのはやめてよね。それでさ、鬼龍ちゃんちょっとお願いがあるんだけどさ――」


 志穂の言葉を聞き、叶の胸に嫌な予感がよぎる。


「ちょっと待って下さい。今は奏音さんと秋義の結婚式の話ですからそれ以外は――」


「まぁまぁ、話ぐらい聞いてよ。最近ちょっと噂になってる古い団地の案件があるんだけどね、別で廃村で行方不明になってる案件もあってさ、どっちか手伝ってくれない?」


 叶は項垂れると片手で髪をかきあげ、憂鬱そうにため息を漏らす。


「絶対どっちも普通の案件じゃないですよね?志穂さんが持ってくる仕事、だいたいろくな事にならないんですけど」


「私達の所に来る案件で普通な事の方が珍しいでしょ?それに斗弥陀の件だって結果、奏音さんと知り合えた訳だし、それなりの報酬だって得られたでしょ?」


「……まぁそうなんですけどね」


「そうでしょ?だからお願い。じゃないと過労で倒れちゃうかもしれないしさ」


 明るい口調で笑いながら言う志穂に対して、叶は少し呆れた様に笑った。


「過労で倒れるのは嵯峨良さんでしょ?私は私で仕事受けてるんで時間が合えば考えます」


「じゃあ両方の資料送るから、またいつから取り掛かれるか教えてね、それじゃぁ」


「えっ、ちょっと――」


 叶が問い掛けようとした時には既に電話は切られており、スマホを恨めしそうに見つめる。


「なんか受ける流れになってるじゃん」


 叶が椅子に腰掛け、深いため息をつくと、幸太がひょっこり顔を覗かせた。


「叶さん、お客さん来たよ」


 幸太の明るい声を聞き、思わず笑みがこぼれる。


「ありがとう、ひとまずこっちに通してあげて」


 叶の言葉を聞き幸太は笑顔で頷き、振り返り歩いて行った。

 そんな幸太の背中を見つめながら微笑む。


 なんだろ、最近穏やかだな。平穏に過ごせてるのも悪くはないよね。こんな普通の幸せも慣れたら平凡に感じちゃうのかな?――。


 叶がそんな事を考えながら笑みを浮かべていると、幸太がお客さんである女子高生三人を連れて戻って来る。


「さぁこっちに座って下さい」


 幸太に促され女子高生達が腰を下ろすと、叶が柔らかな笑みを浮かべて一礼する。


「こんにちは、私が鬼龍探偵事務所の鬼龍叶です」


 叶がそう言って微笑みかけると女子高生達は少し戸惑うように顔を見合わせていた。

 そして真ん中にいた女子高生が少し伏し目がちに叶を見つめゆっくりと口を開く。


「私、神様に殺されちゃうかもしれないんです。助けて下さい」


 懇願する様に訴える女子高生を、叶は穏やかに見つめていた。


 ああ、私の平穏は短いんだ。騒然とした日々が列を作って待ってるんだな――。


 表情を崩す事なく叶は頷き、語り掛ける。


「わかりました、お話し下さい。出来る限りお力になりますよ」


       ~視える私と視えない君と~完〜

あとがき


 まずはここまで読んで下さった皆様に感謝申し上げます。

 本当にありがとうございます。


 そして最後になるにつれ、更新が飛び飛びになってしまい本当に申し訳ございませんでした。

 本当は毎日更新したかったですし、特に終盤の『真相』の辺りは一気に行きたかったんですが執筆が全然追い付きませんでした。

 やはり完成六割ぐらいで見切り発車したのが悪かったですね。次からは九割完成させてから臨みたいと思います。


 因みに裏話ではないんですが、完成六割で見切り発車したせいで変更を余儀なくされた箇所がありました。

 それは当初、絵梨香の心臓発作を筋弛緩剤を使って起こさせる予定だったんですが途中で調べた所、筋弛緩剤は心筋には作用しないという事を知りまして焦りました。

 しかし絵梨香は既に心臓発作で亡くなったとして物語は進んでいた為、急遽、奏音の持っていた抗アレルギー剤を使うという設定に変更しました。


 ちゃんと調べてから書かなきゃいけませんね。

 因みにこの時色々調べた為、自分のスマホの検索履歴が「心臓発作」「心臓発作原因」「心臓発作、薬」「心臓発作発生させる」等、かなり不穏なワードで埋めつくされてました。

 もし何かあって警察なんかに調べられたらかなり怪しまれるなと思ってましたね。


 あとは幸太の活躍がちょっと少なかったりで途中悩んだりもしましたが、大筋では当初の予定通り進みました。

 少し予定変更されたキャラなんかもいましたが、無事完結まで来れたのは最後まで読んで下さった皆様がいたからです。

 本当にありがとうございました。


 色々な反省点は次のお話以降に生かして行きたいと思います。

 次はホラーの短編か、ちょっと書きたい現代ファンタジーかと思っています。

 叶達の続編を書くかは決まってませんが、また次のお話でお会い出来れば幸いです。

         赤羽こうじでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ