エピローグ②
「貴女達が私にしようとしてる事って犯罪だし、それをしたら私と同類になりますよ?」
やや口元を引きつらせながら華月が言うが、志穂はそれを聞いて更に釣り口角を上げた。
「そんな事はわかってるわよ。それにそんな事言ったってもうどうにもならない事ぐらい貴女もわかってるでしょ?あと、勘違いしないでね。この件に鬼龍ちゃんは絡んでないから。鬼龍ちゃんこういうの嫌うから、もし知ったら絶対に止められるし、私が怒られちゃうのよ。貴女みたいに友達失いたくないのよね」
「はは、私は友達なんていた事ないけど?」
「あらそう。まぁどっちでもいいわ。鬼龍ちゃんには『何処かで痛い目に会うわよ』なんて言ったけど、私が知らない何処かで貴女が痛い目に会ってても全然スッキリしないのよ。私はこの手でやらなきゃ気が済まないタイプなの。貴女は私の友人を怒らせ、そして私を怒らせた。最後に何か言いたい事は?」
「……霊が視えるんでしょ?だったら化けて出てやるからね」
これを聞いた志穂はニヤリと笑った。
「上等ね」
これが二人の最後のやり取りとなった。
その日の夜。
大河内まなみが仕事を終え、いつも通り帰宅する。
「ただいまー。ねぇちょっと聞いてよ、今日さぁ……」
華月がいるものとして、帰宅していつもの明るい調子で話し掛けたがそこに華月はおらず、まなみは少し戸惑いを見せた。
「あれっ?華月ちゃん?トイレ……とか?」
部屋を見渡しながら、いつもと微かに違う部屋の雰囲気を感じ取り胸がざわついていく。
そんな時、突然まなみのスマホが鳴り響いた。
普段鳴る事が少ない着信に驚きながら画面に視線を落とすと、そこには着信華月の文字があった。
「華月ちゃん!どうしたの!?」
慌てて電話に出て問い掛けるまなみだったが、電話の向こうから聞こえてきたのは聞き慣れない女の声だった。
「大河内まなみさん、こんばんは。突然すみません。急なんですが華月さんは潜伏先を変える必要が出来まして、急遽引っ越す事になりました」
「えっ?嘘?……貴女は誰なんですか?」
戸惑いながらも努めて冷静に問い掛けるまなみだったが、電話の向こうから少し「ふっ」と笑った声が聞こえた後、女性が静かに丁寧な口調で話し出した。
「私が誰かは気にしないで下さい。貴女は華月さんの事は何も知らない。寧ろ華月なんて人は初めからここにはいなかった。そうした方が皆幸せだと思いますがどうでしょうか?」
「……そういう事ですか?……わかりました」
「ご理解が早くて助かります。もし残ってる華月さんの荷物があれば売るなりなんなり処分して下さい。あと最後に、私からの電話もなかったという事でお願いします」
「……全てなかったって事ですね?」
「えぇ、それでは」
静かに電話を切ると明かりの点いているアパートの一室を見つめながら笑みを浮かべ、志穂は振り返りゆっくりと歩き出した。
手にしていた華月のスマホのカバーを外すと、SIMカードを取り出し本体はそのまま横を流れる川に投げ捨てる。
そしてポケットからガムを取り出すと包み紙を剥いてガムを口にし、残っていたSIMカードをガムの包み紙で包み、街のゴミ箱に投げ入れた。
「ふふ、ようやく終わったわね」
呟きながら志穂は暗い異国の地を一人歩いて行く。
その後の華月がどうなったか、知る者は誰もいなかった。ただ一人を除いて。