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終幕


――

 口角を釣り上げ、虚ろな瞳で見つめる華月を見て、全員が絶句していた。華月から発せられる異常な雰囲気は志穂でさえ言葉を失い苦笑させる。


「なんなのあの子は……」


 志穂がぽつりと呟いたが、誰も答える事は出来ず、食堂内は再び沈黙に包まれた。


 そんな中、華月がようやく口を開く。


「……邪魔者はいなくなって計画通りに進んでいたのにどうして邪魔するの?鬼龍さん」


 華月の静かな問い掛けに、背筋が少し冷えるような気もしたが、叶は苦笑しながらも鼻で笑って見せた。


「はは、邪魔者か……勘違いも甚だしいわね。本当の邪魔者は貴女でしょ?華月さん」


「私が邪魔者?あはは、私は邪魔者じゃないよ。私は救ってあげたのに、寄生する害虫達から斗弥陀を。そして面倒臭い高飛車な女から秋義さんもね」


「ははは、そこまで行くと誤認や錯覚というより妄想や病気ね。それとずっと勘違いしてるようだから教えてあげようか?奏音さんはちゃんと生きてるのよ。だから何があろうと、貴女が秋義さんに選ばれる事はないからね」


 叶の言葉を聞き、華月だけでなく食堂内にいた殆どの者が言葉を失い驚愕の表情を浮かべる。

 そんな中、叶の言葉が合図かの様に食堂の扉が開くと、車椅子に座った奏音が姿を現した。


 全員が言葉を失い奏音を見つめる。全員の視線が自身に注がれている事に気付いた奏音はやや戸惑いながら笑みを浮かべた。


「皆さんお久しぶりです。なんか幽霊を見るような目ね。だけどちゃんと生きてるから安心してほしいんだけど……ねぇ鬼龍さん、私が生きてるって皆に伝えたよね?」


 戸惑いながら問い掛ける奏音だったが、叶は眉尻を下げ口元をひくつかせて、視線を合わせないまま苦笑いを浮かべていた。


「い、今伝えました」


「な、なんで今なの!?もっと早くに伝えてって言ったじゃない!」


「仕方ないじゃないですか!まだ終わってなかったし、何より奏音さんの安全を考えてですね――」


「うるさい!」


 奏音と叶が少し場違いな雰囲気て言い合っていると華月が叫んでそれを遮った。


「……なんで?なんで奏音さんが?亡くなったって、死んだって言ったじゃない!」


 少し取り乱しながら華月が声を上げて叫ぶが、叶は見下した目をしたまま冷笑を浮かべる。


「だから嘘に決まってるじゃん。あの時奏音さんが狙われたのは明白だった。だから死んだ事にしてこれ以上奏音さんを攻撃させないようにしたの。そして奏音さんが死んだと伝えた時、全員がどんな反応をするか見たかったから。あの時、全員が驚いた表情や残念な表情を浮かべる中、貴女だけは下を向いて表情が見えなかったわね。どうせあの時もさっきみたいな笑み浮かべてたんでしょ?」


 叶の問い掛けに華月は答えず、代わりに片手で髪をかきあげると突然声を上げて笑い出した。


「あはは、あははははは。何よ、私が十数年かけて温めてきた朱里ちゃんていうカードを遂に切ったのに、そんな簡単に跳ね返さないでよ。私がずっと、朱里ちゃんは凄いね、朱里ちゃんは普通の人とは違うね、って言って育ててきたのに私の十数年が台無しじゃない!」


「知らないわよ、貴女達の十数年なんか!そんなくだらない事で今まで奏音さんが生きてきた二十数年終わらせられたらたまったもんじゃないわよ!」


 叶が捲し立てるように言い放つと、華月は舌打ちをし突然踵を返して走り出す。

 突然の事に全員が遅れをとると、華月は奏音の車椅子の後ろに回り込み、奏音の喉元に隠し持った針を突きつけ全員を睨みつける。


「動かないで下さい。長年の計画をおじゃんにされて、私今、何するかわかりませんよ」


 そう言って奏音の喉元を針で軽く触れると、奏音が体を強ばらせて息を呑むのが伝わり、華月は笑みを浮かべた。


「怖いですか?この針には勿論蜂の毒が塗ってあります。もう一度刺されたら、どうなるんでしょうね?」


 勝ち誇ったように問い掛ける華月だったが、体を強ばらせながらも奏音は蔑んだ視線を向けて嘲笑して見せる。


「ふん、やるならやったら?ただし私は貴女に殺されてやるつもりはないから。絶対に貴女の思い通りになんかなってやらない」


「くそっ!」


 強気の笑みを見せる奏音に対して、華月は顔をしかめて歯噛みすると奏音の乗った車椅子を思いっきり押した。


「きゃっ」


 不意に押された奏音はバランスを崩しそのまま車椅子ごと床に倒れると、自分の右腕上腕に華月が持っていた針が刺さっている事に気付いた。

 それを見た華月はニヤリと笑うと踵を返し出口へ向かって走り出す。


「くっ、痛っ……」


「奏音さん!」

「奏音!」


 慌てて針を抜きうずくまる奏音に叶と幸太、秋義が駆け寄り、その横を志穂が駆け抜けて行く。


「そっちは任せたよ。私はあの子を追うから」


「お願いします」


 先程までの静けさとは打って変わり、食堂内は騒がしさを増して行った。

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