真相⑫
「そう、もしこれが濡れ衣だったら本当に酷いかもしれない。だけど秋義さんに奏音さんの背中を確認してもらったの。そしたら奏音さんの背中の一部が腫れ上がって強いアレルギー反応が出てたみたいなんだ。そこは廃病院で階段を踏み外した貴女に奏音さんが押されたって言ってた場所。
華月さん、あの時わざと踏み外したように見せかけて奏音さんを押したんでしょ?そして忍ばせていた小さな針で刺した。たっぷり蜂の毒を塗ってね。蜂とかのアナフィラキシーって一回刺され時よりも短期間で二回刺された時とかに強く出るそうなんだけどアレルギー体質の奏音さんには効果的面だったみたいね」
「なんで……なんで私がそんな酷い事をしたって言い切れるんですか?」
俯き両手で顔を覆ったまま華月が問い掛けるが、叶は冷めた様な眼差しを向ける。
「そうね、まずは大河内まなみさんっていう女性知ってるかな?」
「……知りません」
「そう、まぁある情報屋さんが調べてくれたんだけど、キャバクラ嬢してる女性でね数ヶ月前に行方不明になったみたいなの。その人ね、地方から出て来て人付き合いも希薄でホスト遊びに夢中になってたみたいでさ、売り掛けっていうツケみたいな感じでホストクラブで遊んでたみたいなのよ。
もうわかるかな?その人は神谷崎さんを指名してた人。そしてその人は売り掛けのお金なんか払わずにどっか行っちゃった訳だからその負債が神谷崎さんにのしかかったの。
そしてその大河内まなみさんは行方不明になる数週間前から小柄な女性と喫茶店とかで数回会ってたのを目撃されてる。髪型はボブの黒髪で大人しい雰囲気だったって喫茶店の店員さんが話してくれたって。その女性の特徴まるで華月さんみたいだと思わない?華月さん、貴女神谷崎さんのお客、飛ぶようにそそのかしたんじゃないの?」
叶が落ち着いた口調で問い掛けるが、華月は変わらず俯いたまま両手で顔を覆っていた。
「黙秘する気?まぁ今その情報屋さんが貴女の写真を持って喫茶店の店員さんに聞きに行ってくれてるからすぐにわかるとは思うけどね。
それともう一つ、朱里さん達が奏音さんを狙う理由がない。秋義さんを狙うなら百歩譲ってわかるかもしれない。秋義さんがいなくなれば義人さんにより権利や権力が行く訳だから。
でも奏音さんがいなくなったってあの人達にメリットなんかない筈。
そして奏音さんの部屋にスズメバチを忍ばせる事が出来るのは華月さん、貴女が一番簡単に出来る。そしてさっきも言った奏音さんの背中の件。何より一番怪しいのは貴女のその反応や仕草。貴女の秋義さんに対する反応やリアクションて何処かわざとらしくて鼻につくのよ。貴女を見てると好きな人にアピールしてるというより、計算して媚を売ってるようにしか感じられないの。貴女、本気で人を好きになった事なんてないんじゃないの?」
叶の追求に華月は俯き両手で顔を覆ったまま何も言わずに肩を震わせていた。
「……ねえ、貴女いつも何かあったらそうやって俯いたりして顔を隠すよね?本当は表情を見られたくないんでしょ?今はちゃんと悲しい顔をしてるのかな?」
叶の問い掛けに華月がようやく静かに口を開く。
「……なんで……なんでそんな事が……わかるの鬼龍さん?」
先程までの消え入りそうな声とは違い、静かな落ち着いた口調でそう言って顔を上げた華月の表情は、口角を釣り上げ不気味な笑みを浮かべていた。




