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真相⑨


 全員が(いぶか)しんだ視線を向けるが、神谷崎は全体を見渡すと不敵な笑みを浮かべた。


「さて、今の話を聞いて色々と言いたい事はあるが、俺が拘束されるいわれはないよな?」


 ここまでの話の流れを考えれば当事者である筈の神谷崎から発せられた言葉を聞き、全員が眉根を寄せて不快感を露わにする。


「貴様ふざけるなよ。今の話を聞けば、どう考えても貴様が首謀者だろうが?」


 強い口調で貴之が問い詰めようとするが、神谷崎は見下す様な笑みを浮かべていた。


「いやいや、確かに自分はホストをしていますよ。そして斗弥陀を占いの商売相手にしようとしてたのも事実だ。だが実入りがいい話に飛びつくのは仕事するなら普通の事だろ?それに俺は三条のおばさんを殺した訳じゃないし、遺体を埋めた訳でもない。俺はただあんた達を占ってただけだ。言いたい事は山ほどあるが、今更何を言ってもあんたらと建設的な話し合いが出来るとも思えない。だったら俺はここら辺でおいとまさせて頂くよ」


「そんな事がまかり通ると思っているのか?お前はあの二人と共犯だろうが?」


 尚も貴之が食い下がるが神谷崎は鼻で笑い一笑に付す。


「共犯という明確な証拠は?状況の推測だけであんたらに俺を拘束する権利はない筈だ。この後警察から話を聞きたいと言われれば協力してもいいが、任意なら強制される訳でもない。だからあんたら素人に俺を拘束する権利なんてないのさ」


 そう言ってのけると神谷崎は踵を返し食堂の出口の方へと歩き出した。

 そして貴之と義将はそんな神谷崎を歯噛みしながら見送る事しか出来ずにいた。


 だが颯爽と歩いて行く神谷崎に志穂が明るい声で声を掛ける。


「まぁ神谷崎さんの言う通り貴方を拘束する権利は誰にもありませんね。だから今のうちにしっぽを巻いて逃げたいんでしょう?」


「なんだと?」

 

 挑発めいた志穂の口調に神谷崎は歩みを止め志穂を睨みつける。


「あら、さすが三流ホスト、言ってる事がわかりませんか?立場が悪くなったからとっとと逃げ出したいんでしょ?いいんじゃないでしょうか、いつまでも逃げ続ければいいと思いますよ。ただ貴方が抱えた一千万の負債は消えませんし、返すあてもなくなりましたね。お店の方々は貴方をしつこく追うでしょう。貴方のような甲斐性も人望もない三流ホストがどこまで逃げおうせるか見ものじゃないですか。さぁ頑張って逃げ回って下さい。どんな惨めな最後があるのか楽しみでしょうがない」


「それ以上喋るなクソ女!」


 志穂の執拗な挑発に神谷崎は怒りの形相で振り返ると、怒声を上げて志穂に向かって突進して行く。

 凄まじい剣幕で迫り、神谷崎は勢いそのままに右手を伸ばし志穂に掴みかかった。

 しかし伸ばした右手で志穂の襟首を掴む寸前、志穂は左手で神谷崎の右手を受け流す様にそっと掴んでいなした。

 寸前で躱された神谷崎が前につんのめる様にして体勢を崩すと、志穂が笑みを浮かべながら軽く足を掛ける。バランスを崩していた所に足を掛けられ、神谷崎は一瞬完全に体が宙に浮いた様な状態になった。


 志穂は瞬時にそのままいなした左手で神谷崎の右腕を掴み捻りあげると、自らも飛び込む様にして神谷崎と共に倒れていく。


 神谷崎は右手を志穂に捻られていたせいもあって受け身が取れず顔面から床に落ちてしまい鼻面を強打し、その上に志穂も倒れ込んだ。

 志穂が捻りあげていた神谷崎の右腕は倒れた勢いと衝撃で鈍い音を立てて肩や肘があらぬ方向に曲がっており、食堂内には神谷崎の情けない悲鳴がこだましていた。


「あらあら、こんなか弱い女性に掴みかかるなんて酷いじゃないですか。おかげで私転けちゃったじゃない。ホストだったら話術で反論したらいいのに、暴力に頼るなんてさすが三流ホストって所ですかね。まぁ鼻も潰れて右腕は全治数ヶ月かな?ホストなんだから女性は大事に扱わなきゃね」


 志穂は床でのたうち回る神谷崎を見下しながら嘲り笑っていた。

 その後近くにいた堀を見つめて微笑みかける。


「堀さん、これうるさいから救急車呼んで退場してもらって下さい。いいですよね、貴之社長?」


「あ、ああそうだな」


 少し顔を引きつらせて貴之が頷くと志穂は満面の笑みを見せていた。

 志穂はそのまま振り返ると叶にそっと近付き静かに問い掛ける。


「ねぇ鬼龍ちゃん、あの人視えるよね?」


 志穂からの問い掛けに叶はいつも義将が座る席にそっと視線を走らせた。

 その横には相変わらず眉根を寄せて険しい表情をした小夜子の霊が静かに座っていた。


「ええ、視えますよ。まだ難しい顔してますね」


 叶が静かに頷くと志穂は眉尻を下げて困った様な笑みを浮かべた。


「そうよねぇ……じゃあやっぱり……」


「ええ、終わってませんねたぶん」


「やっぱりまだ終わらないか……」


 そう呟き軽くため息を吐くと、二人揃って苦笑いを浮かべる。


 やがて池江が呼んだ警察がやって来ると森の中から三条の遺体が見つかり朱里と義人、それに西園も連行されて行った。

 その間、神谷崎は少し遅れて到着した救急車に乗せられ搬送されて行き、屋敷に残った者達も警察の事情聴取を受ける事となり数日間斗弥陀家に滞在する事となった。

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