真相⑦
「ねぇ、さっきから大人しく聞いてたけどさ、あまりにも突拍子も無い話過ぎて聞き入っちゃったじゃない。私が三条さんを殺した?貴女、あたかもその場にいたみたいな言い方だけど、じゃあ実際私が三条さんを殺しちゃった所見たの?」
「……いいえ、残念ながら見てはいないですね」
志穂が微かに首を振ると朱里は蔑む様な眼差しを向け語気を強める。
「何よ証拠もないくせに勝手な妄想でひとを殺人犯扱いして、大体貴女秘書でしょ?でしゃばらないでよね。あんたら始めっから胡散臭いのよ」
身振り手振りを加えて捲し立てる朱里だったが、志穂は軽くため息をつくと眉尻を下げて微かに微笑む。
「確かに私は見てた訳じゃないのですが、三条さんがそう仰ってたので私はそれを代弁しているのです。三条さんは朱里さん、貴女に殺されたと訴えておられるので」
「は?何言ってんの?貴女頭大丈夫?」
朱里が首を傾げて見下すように志穂を見つめるが、志穂は更に口角を上げる。
「ええ、勿論頭は大丈夫ですよ。まぁよくそんな事言われますけどね。人を殺しといて平然としている貴女に言われるといささか心外ではありますがね」
「いや、あんた何言ってんの?三条さんは死んでるって言ったり、その三条さんから聞いたって言ったり、矛盾だらけなんだけど」
少しトーンダウンさせ、戸惑う様な朱里だったが、次は志穂が見下す様に朱里を見つめる。
「だから殺された三条さんの霊がそう訴えていると言ってるんですよ。我々が霊能者だって事忘れましたか?」
「いや、だからあんたは秘書で、霊能者はそっちの嵯峨良って人でしょ?」
戸惑いながら問い掛ける朱里だったが、そんな朱里を見て志穂は片手で髪をかき上げて腹を抱えるように笑い出す。
「ふふふ……あはははは、何?そんな事信じてるの?私はただの秘書で霊が視えない?そんなの嘘に決まってるでしょ。あはははは、始めから視えてるわよこの屋敷にいる小夜子さんも、殺された三条さんも。朱里さん貴女さっき言ってたよね?私達始めから胡散臭かったんでしょ?だったら全てを疑わなきゃ。何都合良く私が霊は視えないって事だけ信じてるの?」
志穂の笑い声だけが響き全員が言葉を失う中、呆気に取られていた幸太に叶が静かに語り掛ける。
「ね?霊能者なんて胡散臭い連中なんだから迂闊に信用しちゃ駄目でしょ。君はこんな世界に染まらないでね」
驚いて叶を見つめると、叶は微かに微笑んでいた。
そんな中、志穂が楽しそうに更に続ける。
「まぁしかし、警察なんかに『殺された人の霊が訴え掛けて来るんです』なんて言っても信じてくれる訳もないんですよ。
だけどね、三条さんの遺体を掘り起こしたりしたらどうでしょう?実際遺体が見つかったら警察は捜査しない訳にはいかないでしょう。そうすれば司法解剖なんかで死亡推定時刻なんかもわかるでしょうね。そうなればその時間のアリバイなんかも重要になるでしょう。
良かったです。私達は三条さんが殺された時間、この屋敷で神谷崎さんに占ってもらってましたからアリバイは大丈夫ですね。
勿論その時間にアリバイがないから犯人だ、なんて事にはなりませんが……」
そこまで話して一旦区切ると、志穂は軽く手を叩いた。
その志穂の動きは誰の目から見てもわざとらしく思えたが、志穂は振り向き西園を見つめる。
「おやおや、そう言えば明らかに矛盾した事を言っておられた方がいますね。西園さん、貴方二日目の夕食の時、三条さんは体調が優れないから部屋に引きこもっておられるって言ってたんですよね?しかし三条さんはその時間には殺されている筈なんです。さっき言った通りこの後、三条さんの遺体が見つかり司法解剖されれば死亡推定時刻がわかり、貴方の証言がおかしい事に気付かれますよ」
「え?そんな……おれはただ――」
戸惑い不安な表情を見せる西園に志穂はゆっくりと歩み寄り西園の眼前に迫ると、その細い目を見開き口角を釣り上げた。
「貴方の証言は明らかに矛盾だらけです。警察は徹底的に貴方を取り調べるでしょうね。ひょっとしたら貴方が犯人だと始めから決め付けられるかもしれません。辛く長い取り調べ、頑張って耐えて貴方の言葉、貫けますかね?」
「ち、違う、俺はレオンさんから美味しい話があるからって言われてこの屋敷に来て。それで言われた通りに使用人として働きながらあの人達の言う通りにしただけで――」
「おい!何勝手な事喋ってんだ!」
戸惑い困惑の表情を浮かべて西園が言い訳を口走ると、すかさず神谷崎が口を挟んだ。
その瞬間、西園は怯えた表情で口を噤んだが、志穂は満足気な笑みを浮かべていた。