真相⑤
「朱里さん、貴女も神谷崎さんの負債をなんとかしようと持っていた高級ブランドのバッグを売ったりしてお店にお金落として頑張りはしたんでしょうけど流石に一千万円の負債はどうしようもなかったんでしょうね。何より貴女自身がお金を持っている訳でもなく、彼氏である義人さんがお金持ちってだけでは流石に無理がありますもの。そこであなた達二人は考えた、ならば斗弥陀家に入り込もうと」
志穂がしたり顔で二人を見つめるが、二人は志穂を睨んだまま言葉を発する事はなかった。
「ふふふ、そんな睨まないで下さいよ、怖くて何も話せなくなるじゃないですか。まぁそうは言っても学がないあなた達が斗弥陀家に入り込むのは不可能に近かった。そこで奥様を亡くされて気落ちしていた義将会長に目を付けた。義将会長に、霊能者なら亡くなられた絵梨花さんの霊と交信して想いが聞けるかもしれないと、さりげなく吹き込みその気にさせる。そうして優秀な霊能者だと信じ込んでもらい、義将会長の信用を得られれば斗弥陀家に入り込む事も出来ると考えたんでしょう。実際どうでしょうか義将会長、そんな風に言われませんでしたか?」
義将の方へ振り向き志穂が問い掛けると、義将は一瞬考えた後、義人の方へ鋭い眼光を向け静かに頷く。
「確かに義人からその様な事を言われたのは確かだ」
「なるほど。恐らくまずは朱里さんが義人さんに話を持って行ったんでしょうね。上手く行けば義人さんも斗弥陀の経営陣に加われるかもしれないとかそそのかされて。義人さんも今のままならただのドラ息子ですからね自分も斗弥陀の中枢に入る事を望んだんでしょう。かくして三人は互いの利益の為に動き出す」
志穂が三人を見つめるが、三人は目を伏せ志穂と目を合わせようとはしなかった。
笑みを浮かべたまま志穂は更に続ける。
「まず自分達が斗弥陀家に入り込んだ時、少しでも支持者を得ようと店に見習いホストとして来ていた西園さんを斗弥陀家の使用人として潜り込ませる。これには西園さんを裏方として上手く動かす狙いもあったと思われます。実際最近も活躍しましたよね、西園さん?」
「あ、いや、その……」
志穂が西園に話を向けるが、西園はしどろもどろとなり要領を得そうになかった。そんな西園を池江が激しく睨む中、志穂は楽しそうに話を続けた。
「まぁその辺はまた後ほどにしましょうか。そうしてあなた達は機をうかがった。そして暫くして斗弥陀が買った関西地方の廃病院に目を付けた。霊能者の力を示すには絶好の舞台です。あなた達はその廃病院の調査に自分達も同行し、そして仲間に引き込んだ興梠さんも同行させた。あなた達のシナリオでは興梠さんに廃病院で活躍してもらい、会長にも興梠さんの力を示した後、興梠さんに斗弥陀家へやって来てもらう。そして絵梨花さんの言葉として義人さんや神谷崎さんに有利になるような事を吹き込んでもらうのがあなた達の目的だったのでしょう?
そして興梠さんの引き立て役として、適当な霊能者を選ぼうとして我々に連絡が来た。
だけどそう上手くは行かなかった。廃病院で肝心の興梠さんが本物の霊にやられてリタイアしてしまい、代わりにウチの鬼龍ちゃんが活躍してしまった。適当な引き立て役を選んだつもりが、残念な事に本物を選んじゃったのよね。更に義将会長は鬼龍ちゃんの力に興味を示し屋敷に招待までしてしまった。
あなた達は焦ったでしょう?鬼龍ちゃんじゃ自分達に都合がいいような事を言ってくれる筈がない。だから急遽興梠さんの代役を探した、それが三条さんなのよね?」
まるで自分達の計画を初めから知っていたかのように次々と志穂が話していく為、三人は反論する事さえ出来ずにただ歯ぎしりしながら志穂の事を睨む事しか出来なかった。
「三条いつきさん、本名は丸太京子さん。彼女もまた神谷崎さんがいるお店に通う常連客の一人だった。そして彼女もお店に払うお金がなくて困っていた。私からしたらお金が無いならそんな所に飲みに行かなきゃいいのにって思うんだけど価値観の違いかしらね?
まぁ何はともあれあなた達は三条さんに百万円の報酬を約束して興梠さんの代役を頼んだ。三条さんは喜んでその仕事を引き受け、あなた達は事前に絵梨花さんの特徴等を伝えた。そして実際初日から三条さんは絵梨花さんの霊が見え、そして語り掛けてくると約束通りの立ち回りをしていた。
ここまではあなた達の目論見通りだったんでしょう?だけどその後誤算が生じた」
核心をつくように志穂が問い掛けるが、それに応える者はおらず沈黙が訪れる。




