真相③
「私、朱里ちゃんに嵯峨良さんをこちら側に引き込むように言われて来たんです」
「嵯峨良さんを?」
少し驚き聞き返すと、華月はゆっくりと頷く。
「はい。なんか三条さんじゃ駄目だから嵯峨良さんをこちら側につけるんだって。今なら秘書の人もいないみたいだから色目を使って嵯峨良さんを誘惑してこいって。一度そういう関係になれたら後はそれをネタにも出来るからって」
俯き怯える様に視線を彷徨わせる華月の様子を見て、叶は大きなため息をつき嵯峨良を見つめた。
「嵯峨良さん、一応確認なんですけど華月さんに何もしてませんよね?」
「いや、する訳ないだろ。この子が訪ねて来て、部屋に入れたら突然抱き着かれたから、慌てて振りほどいちゃったぐらいなんだから」
「……最近じゃ部屋に知らない女を招き入れた時点で不利になるんだから気をつけて下さい」
叶が冷たく言うと嵯峨良も俯き黙ってしまった。
静まり返り少し重い空気が漂う中、叶のため息だけが部屋に響く。
「はぁ、色仕掛けに美人局みたいな事まで……何処の反社なのよ?まぁいいわ、完全に仕掛けて来てる訳ね。華月さん、私に助けを求めて来たって事は朱里さん達の方には戻らせないけど大丈夫かしら?」
「はい、私はもう朱里ちゃん達には付き合いきれないです」
「……なるほどね。じゃあ一つ教えてもらえるかしら?朱里さんの仲間は誰と誰なのか?」
叶の問い掛けに華月はゆっくりと頷いた。
「……はい、私の知ってる事をお話します」
そう言って華月は神谷崎は朱里が指名しているホストである事、それに三条がそのホストクラブに出入りしていた事、そして西園がそのホストクラブの元従業員である事を話しだした。
それを聞きながら叶が何も言わずに頷いていると、華月は不思議そうに首を捻る。
「鬼龍さん、驚かないんですか?」
「えぇそうね。はじめて聞いた話なら驚いたでしょうけど、実は既にその辺の話は調べがついてるの。ごめんね、貴女を試す様な事をして。でも私は見極めなきゃいけなくてね。華月さん、貴女がどちら側の人間かを」
そう言って華月を見つめると、華月も臆することなく叶の瞳を見つめる。
「鬼龍さん、お願いします信じて下さい。私鬼龍さん達にまで見捨てられたらどうしたらいいのか……」
「ええ、わかりました。ここまで素直に話してくれた華月さんの事は信じます。ですから一つ質問です。義人さんはこの件どこまでご存知で、どちら側の人間かわかりますか?」
叶の質問に、華月は少し目を閉じ考えてからゆっくりと口を開いた。
「義人さんは基本、朱里ちゃん側の人間です。ですが朱里ちゃんと神谷崎さんの関係はよくわかってないみたいで、ある意味利用されていると思います」
「なるほどね……」
華月から話を聞き、椅子に腰掛けると思慮を巡らせる。
どうしたものかな?今の所華月さんの話に辻褄が合わない様な不審な点はない。だとすると今回の件、主導しているのは朱里さんと神谷崎さんと考えた方がいい。義人さんは寧ろ利用されていると考えた方が自然かもしれないけど……まだ確証が得られない。志穂さんの帰りを待ってから結論を出すべきかもね――。
叶が一人、目を閉じながら頭を悩ませていると、突然部屋に扉をノックする音が響いた。
驚き扉の方を振り返ると、続けてすぐに明るい声が響く。
「嵯峨良先生、それに鬼龍ちゃんもいるんでしょ?私も入れてほしいな」
声を聞き、志穂だとすぐに気付いた叶が立ち上がり扉を開ける。
そこには満面の笑みを浮かべた志穂と、その後ろには覗き込む様に幸太が立っていた。
「志穂さん、それに幸太君も。丁度良かった中に入って下さい」
叶に言われて部屋に入ろうとする志穂がすれ違い様に声を掛ける。
「丁度外から帰って来たら倉井君が一人佇んでたからさ、声掛けてそのまま連れて来ちゃったわよ」
「ええ、ありがとうございます。丁度幸太君にも声を掛けようかと思ってた所だったんで手間が省けました」
笑みを浮かべて軽く礼を伝え二人を招き入れると、部屋の外の状況を確認する様に顔を出し左右に首を振り、誰もいない事を確認すると素早く扉を閉めた。
叶が扉を閉めて振り返ると、少し困惑するように片手を頬に当て志穂が立ち尽くしていた。
「想定外の方がいるわね。鬼龍ちゃんこれはどういう状況?」
「ちょっと色々と事態が変わりまして、とりあえず説明しますね」
そう言って叶が華月の状況等を説明していくと、聞き終えた志穂がまるで値踏みをする様に華月を見つめる。
「なるほどね。まぁ状況はわかったわ」
「それで志穂さんはどうなんですか?真相に迫りましたか?」
叶の問い掛けに志穂は含みのある笑みを見せる。