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行方④

 池江を先頭に三条の部屋の前までやって来ると、池江が扉を軽くノックして声を掛ける。


「三条様、おられますか?」


 よく通る池江の声が響いた後、静寂が訪れる。その場にいた全員が顔を見合せ首を傾げた。

 それでも池江が次は少し力を込めて扉をノックすると、更に声を張る。


「三条様申し訳ございません。居られましたらお顔だけでも拝見出来ないでしょうか?」


 声を張り、更に扉を強めにノックするが三条が顔を出す事はなかった。

 静かな間が訪れ、少し不穏な空気が流れる。


 いくらなんでもここまで反応がないのはおかしい――。


 全員の頭に疑問がよぎった時、数部屋隣りの扉が開き志穂が顔だけ覗かせる。


「ちょっと、朝から何の騒動?」


 キョロキョロと周りを見渡しながら、少し困惑するように問い掛ける志穂を見て、叶は密かに胸を撫で下ろした。


「三条さんが見当たらないんです。志穂さんこそ何してたんですか?朝から池江さんが声を掛けに行った筈ですよ」


 叶に言われて、少しキョトンとした顔を見せた後、バツが悪そうに眉尻を下げて志穂が笑う。


「あは、そうなんだ。ごめんねシャワー浴びてたからかな?全然気付かなかったわ」


 そう言って笑う志穂を見ると、確かに殆ど化粧もしておらず、髪もまだ軽く湿っていた。

 叶は軽くため息を吐くと、眉根を寄せて苦笑しながらゆっくりと歩み寄る。


「確かに殆どすっぴんじゃないですか。よく顔出しましたね」


「何よ、化粧しなきゃ人前に出ちゃいけない顔だって言うの?そりゃ鬼龍ちゃんはお顔も整ってるけど、私だって別にそこまで悪い訳じゃないんだからね。確かに最近肌も荒れてきたけど――」


「志穂さん、そんな事誰も言ってませんし、私ほどじゃないにしても志穂さんは十分綺麗です」


 少し話が逸脱しそうな志穂を叶が制すると、叶を見つめて志穂が笑みを浮かべる。


「あらそう。ちゃんと自分を上位に置くあたり鬼龍ちゃんらしいんだけどさ」


 部屋から一歩出て来て少し呆れたように笑う志穂だったが、それを見て幸太がふと気付いたように手を叩いた。


「ひょっとしたら三条さんも少し長めのシャワー浴びてるとかじゃない?」


 少し明るい声で問い掛けた幸太だったが、すぐに池江が首を振り、申し訳なさそうに頭を下げる。


「倉井様、それはございません。シャワー室が完備されているお部屋は鬼龍様、陸奥方様、緋根谷華月様、それに東郷朱里様のお部屋だけなのです。三条様のお部屋にはシャワー室がそもそも完備されておりません」


 池江に言われて、自分の部屋にもシャワー室がなかった事に気付き幸太は気恥しそうに俯いた。

 そんな幸太をフォローするように叶がすぐに割って入った。


「じゃあ尚の事おかしいですよね。少し離れた部屋にいた志穂さんが気付くぐらいに私達が呼び掛けているのに反応がないなんて……少し嫌な予感がしませんか?池江さんマスターキーとかあります?」


「はい、確かに三条様の安否が気になります。今から執事長の堀に言ってマスターキーを取って参ります」


 そう言うと池江は踵を返し、少し早足で駆け出して行く。


「じゃあ私はちょっと支度してくるわね。さすがにこんな格好のままいときたくはないしね」


 そう言って志穂は自室へとひっこんでしまった。

 残された三人は言葉少なく静かに待っていると、暫くして堀を連れて池江が戻って来る。


「お待たせいたしました。それでは早速参りましょうか」


 池江がマスターキーを片手に振り返ると、それと同時に志穂が部屋から姿を見せた。


「あっ、間に合った。私も御一緒させてよ」


 そう言って志穂も加わる。池江が三条の部屋の扉にマスターキーを差し込み回すと、『カチッ』と鍵が解除される音が聞こえた。


「三条様、失礼します」


 池江が声を掛けて扉を開けるが、そこに人の気配は感じられなかった。静まり返った部屋に一歩踏み入れ部屋を見渡すが、やはり何処にも三条の姿は見えなかった。


「やはりおられませんか」


 少し落胆し、池江が部屋のトイレや洗面所を確認していく。だが何処にも三条はおらず全員は途方に暮れていた。


「三条さん何処に行ったの?」


 叶は呟き少し思慮を巡らせる。

 最後に三条さんを見かけたのは玄関の辺りで嵯峨良さんに喰ってかかっていた時だった。その後、夕食時には体調が悪いと使用人の西園さんに伝えて部屋にこもっていたはず。

 ではその後から今朝にかけて三条は姿を消した事になる。体調が悪いと言っていた人が夜中や明け方に出て行く?――。

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