霊視⑦
霊視⑫
「叶さん、不穏な気配って?」
戸惑う表情を見せて問い掛ける幸太を見つめ、叶も困った様に眉根を寄せた。
「なんて言うかな……上手く説明出来ないんだけど、あの海の家で感じた様な死者の念みたいなものが朱里さんの背後に一瞬見えた気がするの。それは朱里さんに対してなのか?それともここにいる全ての人に対してなのかが分からないんだけど……今すぐどうこうって訳じゃなさそうなんだけど、それでも君が少しでも変な気配を感じたらすぐに私に言って、出来る限りの対処はするから」
叶の真剣な表情を見て、幸太も顔を引きつらせながら静かに頷いていた。
その後二人は屋敷の中へと戻ると互いの部屋の前に立ち、叶が笑みを浮かべて見つめる。
「ごめんね、ちょっとだけ一人で考えさせて」
「OK、いいよ。何かあったらすぐに声掛けてよ」
「ふふ、それは君もだよ。まぁ何かあったら呼ぶからすぐに来てね」
互いに笑顔で手を振り部屋に戻ると、叶はベッドで横になる。
「なんだろ?少し疲れてるのかな?」
一人呟き髪をかきあげた。
静かに息を吐き、心を落ち着かせると、これまでの事を振り返りながら考えを巡らせる。
この屋敷に着いてから、霊の気配は感じても悪い感じはしなかった。実際、小夜子さんと思われる霊も警戒している様な感じはあっても危害を加える様な感じではなかった。
だけどさっきの朱里さんの背後から感じた気配は危険な雰囲気を感じた。何かが小夜子さんの逆鱗に触れた?それともまだ他の霊の仕業?――。
「……駄目だ、まだ分からない事が多過ぎる」
ベッドで横になり一人呟くと、叶は頭を抱える。
その後暫くすると、ベッドで横になる叶の前に黒いモヤのような物が現れた。
突然現れた黒いモヤに叶が驚いていると、黒いモヤから突然人の手が伸びてきて叶の首を両手で掴んだ。
驚いた叶は自身の首を掴む手を振りほどこうと抗うが上手くいかず、叶の首を絞める手は更に力を強めてきた。
「止めて!」
叶が叫び、黒いモヤを振り払う様に手を横に払いベッドの上で飛び起きる。
「はぁ、はぁ……何?」
何が起きていたのか理解が出来ずにベッドの上で上体を起こしたまま髪をかきあげた。
全身に汗が滲み呼吸は荒れていた。近くにあった鏡に手を伸ばすと、自身の首の部分を確かめる。
「……跡も何もない」
鏡で自身の首を見つめて触ってみたが、特に異変は見つからない。部屋を見渡し時計に目をやると時刻は既に17時半を示していた。
「……夢?……疲れてんのかな?それとも誰かが訴えてるの?嫌になるな、本当」
軽く頭を振りながら立ち上がった。
「何か訴えたいなら普通に出てきてくれないかな?これでも一応霊能者なんだから」
叶が独り言の様に呟き僅かに口角を上げると、シャワー室へと歩いて行く。
汗ばんだ服を脱ぎ、シャワーを浴びてすっきりして部屋に戻ると、部屋の扉をノックされていた。
「鬼龍様、おられませんか?」
やや強めのノックの後、池江の声が扉の外から響いていた。声の感じからしても少し焦りの様な物も感じられ、今初めて声を掛けたという訳ではなさそうだ。
「あっ、池江さん、すいません。シャワー浴びてまして。何かありましたか?」
叶が慌てて声を掛けると、扉の向こうからはいつもの落ち着いた池江の返事が返ってくる。
「そうでしたか、騒ぎ立てて申し訳ございません。お食事のご用意が出来ましたのでお声掛けに参りました」
「あっ、そうなんですね。すぐに支度して行きますから幸太君にも声掛けて先に行っていて下さい」
「では倉井様にもお声掛けして来ます」
池江の返事を聞き、叶は慌てて支度を始める。素早く化粧を軽く済ませると、黒いパンツに白いシャツを羽織り鏡の前に立つ。
「一応仕事中だしパーティーじゃないんだからお洒落は必要ないよね」
シックなスーツを身にまとい、勢いよく扉を開け部屋を出ると幸太と池江が静かに待っていた。
二人がいるとは思っていなかった叶は体を硬直させて立ち止まり目を丸くさせる。
「び、びっくりした。まさか二人揃って待ってるなんて……先に行っててくれても良かったのに」
「申し訳ございません。ですが鬼龍様を置いて先に行くという選択は私にはございません」
池江が丁寧に頭を下げてそう言うと、隣にいた幸太が眉尻を下げて歩み寄る。
「池江さんの言う通り、叶さんを置いて行く訳ないって。さぁ行こう」
叶も眉尻を下げて三人が食堂へと歩いて行く。




