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霊視⑥


 華月を見送ると叶は階段を降りて行き幸太を探した。すると幸太は屋敷の外にある灰皿の横で手持ち無沙汰な様子でスマホを操作しながら煙草をふかしていた。


「あらあら、お兄さんお暇そうですね。お隣いいですか?」


 叶が笑みを浮かべながら軽口を叩き煙草を咥えると、幸太も笑顔で返す。


「勿論どうぞ。綺麗なお姉さんの為に隣は空けときましたよ」


「あはは、上手いねぇ。私以外にそんな事言っちゃ駄目だよ」


「はは、言う訳ないじゃん。おかえりなさい。どうだった?さっきの子は大丈夫そうだった?」


「えっ?あぁ、まぁ、うん」


 笑顔で問い掛ける幸太に対して、思わず言葉を濁してしまった。幸太に嘘をつきたくはない。だが華月のプライバシーを考えると、先程の会話をそのまま伝えるのはさすがに気が引けた。


 叶が返答にやや困っていると、それを察したかの様に幸太は笑みを浮かべて頷いた。


「そっか、じゃあ良かった。あの子困ってたみたいだったし、無事解決したならOKだね」


 満面の笑みを浮かべる幸太を見つめて叶も柔らかな笑みを浮かべた。


「ありがとうね幸太君。隣にいてくれるのが君で本当に良かった」


 そう言って微笑む叶を見て幸太は何の事かが分からずやや困惑した様な表情を見せたが、特に問い掛ける様な事はしなかった。

 そうして二人、暫く煙草をふかしながら他愛もない事を話していた時、森の中から屋敷に向かって歩いてくる人影に気付いた。

 叶が振り返りその近付く人影を凝視していると、それは朱里だと気付く。


 朱里は一人森の中から姿を現すと足早に屋敷へと入って行く。そんな朱里の背後に少し不穏な影を感じ取った叶が思わず声を掛けた。


「あら朱里さん、お散歩ですか?」


 叶が少し明るめに声を掛けると、朱里は一瞬眉をひそめたがすぐに口角を上げ、嘲笑する様に叶達を見つめた。


「ええ、私はあんた達みたいに変な力もないからね。こんな何もない所にずっといたら気分転換に散歩ぐらいしないとやってらんないのよ」


 言葉の端々に棘を感じさせる朱里だったが、叶はそれでも笑みを浮かべて受け流す。


「そうですか。まぁ私達も会長の意に沿う様な結果を出さなきゃいけないんですが、中々上手くいかなくて申し訳ありませんね」


 軽く頭を振りながら少し困った様に言うと、朱里は更に見下す様な笑みを浮かべていた。


「何?三条さんは絵梨花さんが視えるって言ってたし、嵯峨良って人は小夜子さんが視えるって言ってるみたいだけど貴女はどうなの?視えてない訳?」


「……ええ残念ながら。廃病院でちょっと力を使い過ぎたのかもしれませんね。今回は私は役に立てないかもしれませんね残念ながら」


 眉根を寄せて笑みを浮かべながら叶が言うと、朱里は蔑む様な眼差しを向けた。


「まぁ視えないんじゃどうしようもないから邪魔だけはしない様に大人しくしとく事ね」


 最後まで嘲笑う様な態度を見せて朱里は屋敷へと入って行った。

 それを笑みを浮かべながら見送った叶が振り返ると、幸太が明らかな不快感を示して見つめていた。


「叶さん、なんで黙ってたの?叶さんだって視えてたんでしょ?」


「まぁ確かにね。でも志穂さんからは大人しくしとけって言われたし、ひとまずここは視えないって事でいいかなってさ」


 明るく笑って言ってみたが、それでも幸太は釈然としない様子で頭を振った。


「それでもさぁ……」


 尚も納得がいかない素振りで文句を言おうとした幸太だったが、そんな幸太の顔の前に叶がすっと人差し指を立ててそれを制した。


「言いたい事は分かるよ。でもね、ああいうタイプは他人のマウントを取ったら満足するの。逆に取れなかったら敵意を剥き出しにしてくるんだから、それで大人しくなるんならそれでいいじゃん」


「いや、でも……叶さんが納得いってるなら仕方ないけどさ」


「ふふ、まぁ納得はしてるよ。相手はお客さんでもあるんだし。ただ、ストレスにならないかって言ったらそんな事はないけどね。まっ、その程度で満足するぐらいの取るに足らない奴なんだって見下してれば幾分かは気も晴れるかな?それに、今ここに残ってる連中なんて全員ろくでもないんだからさ、まともに相手なんかしてらんないって」


 そう言って叶が僅かに口角を上げ含み笑いを見せると、幸太は苦笑いを浮かべる。


「えっ?それって俺も含まれてる?」


 苦笑しながら自分を指す幸太を見て、叶は満面の笑みで頭を振った。


「ううん、勿論君は含まれてないよ。幸太君だけはね……いい、幸太君?ちょっと良くない感じになってきてるかも。気を付けて、上手く言えないんだけど不穏な気配というか、念みたいなものが渦巻いてる感じがするの」


 眉根を寄せ、真剣な眼差しで見つめる叶を見て、幸太も思わず息を飲んだ。

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