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霊視④


「奏音はなんとか一命は取り留めたよ鬼龍さん、それに、えっと……」


 秋義が幸太の方を見つめて言葉に詰まり、少し困った様な表情を浮かべると、すぐに幸太が声を上げる。


「あっ、倉井幸太です」


「すまない倉井君。奏音が倒れた時、二人は奏音に駆け寄ってくれて、すぐに救急車の手配や俺や皆に声を掛けてくれたんだよな?おかげで奏音はギリギリの所で踏み止まる事が出来た。救急隊の到着があと少しでも遅れてたら本当に危なかったそうだ。奏音に代わって礼を伝えたい、本当にありがとう」


 そう言って深々と頭を下げる秋義を見て、叶は胸を撫で下ろした。

 しかし顔を上げた秋義の表情は冴えず、疑問に思った叶が更に尋ねる。


「秋義さん、ひょっとしてまだ何か?」


 叶の問い掛けに、秋義は一瞬唇を噛むともの哀しい瞳でゆっくりと口を開いた。


「……呼吸が止まり過ぎてたみたいなんだ。何時目覚めるか分からないみたいで、ひょっとしたらこのまま目を覚まさない可能性もあるらしくて……目を覚ましても何らかの後遺症が残る可能性もあるらしい……あの時、俺が一緒にいる事を選んでいれば……」


 そう言って唇を噛む秋義を見て、叶は初め何の事を言っているのか分からなかった。だが、不意に華月が奏音と部屋を交換する事になったと言っていたのを思い出す。


「ひょっとして奏音さんが部屋を代えて欲しいと言われた時の事ですか?」


「……ああよく知ってるな。あの時、奏音がまた我儘を言い出したと思って嫌気がさした俺は一緒にいる事を拒んで自分の部屋に一人でいる事を選んだんだ。もしあの時、俺が一緒にいる事を選んであいつと同じ部屋にいればこんな事にはならなかったかもしれないのに……」


 そう言って頭を抱えて俯く秋義に叶が歩み寄る。


「確かにそうかもしれませんが、過ぎた事を今更悔やんでも仕方ないじゃないですか。今は奏音さんが無事目覚めると信じましょう。それに奏音さんも秋義さんの事、責めたりするとも思えません。ただ少し寂しかっただけなんじゃないでしょうか?」


「……どうなんだろうな。奏音が目覚めたら本人に聞いてみるよ」


「はい、そうしてみて下さい」


 最後は儚い笑みを浮かべた秋義に対して叶は満面の笑みで返した。すると秋義は微かな笑みを浮かべて歩き出す。


「とりあえず今は奏音の御家族と倉本が付いてくれている。何かあったらすぐに連絡が来る筈だから、俺は少しだけ休ませてもらうよ。少し休んだらまたすぐに病院に戻るつもりだ。あんたらだけに親父の無理難題を押し付ける様で申し訳ないけど俺はこれ以上付き合えない」


「ええ、今はゆっくり休んで、奏音さんの傍にいる事を優先して下さい。それと少しだけいいですか?――」


 叶がそう言って歩み寄り秋義に囁く様に語り掛けると、秋義は笑顔を浮かべて頷いていた。その後、秋義は僅かに口角を上げて頷き踵を返す。

 ゆっくりと歩き始めた秋義を叶と幸太が並んで見送っていた。だが突然後ろから呼び止める様な女性の声が響いた。


「あ、秋義さん!」


 慌てて三人が振り返ると、そこには不安気な表情を浮かべた華月が階段の二階部分から覗き込んでいた。

 物静かな印象だった華月が声を張り上げた事に叶が驚いていると、華月は更に階段を駆け下り叶と幸太の横を走り抜け秋義の元へと駆け寄った。


「あ、あの、秋義さん、大丈夫ですか?」


 少し瞳を潤ませて秋義をまっすぐ見つめて問い掛ける華月を見て、秋義は一瞬驚いた様な表情を浮かべたがすぐに眉尻を下げて表情を崩す。


「華月ちゃんありがとう。奏音は大丈夫だ。きっといつか目覚めてくれる筈だから」


 そう言って華月の肩を軽くぽんぽんと叩き身を翻そうとした秋義を華月は更に引き止める。


「あ、あの、秋義さんは大丈夫なんですか?」


 思いがけない問い掛けに一瞬驚いた秋義だったがすぐに笑みを浮かべる。


「大丈夫さ。今は少しだけ休ませてもらうよ、じゃあ」


 そう言うと秋義は振り返り自身の部屋の方へと歩いて行った。

 秋義を見送り残された三人が無言のまま佇んでいたが、叶の方へと振り向き、意外にも華月の方から話し掛けた。


「あの、鬼龍さん、少しだけお話があるんですが……」


「はい、何でしょうか?」


 内心、予想外の展開に戸惑った叶だったが、それをおくびにも出さずに平静を装い尋ねる。

 すると華月は幸太の方に微かに視線をやりながら言いづらそうに叶を上目遣いで覗き込んでいた。

 何かを察した叶は微かに口角を上げ幸太の方を向く。


「幸太君。少し華月さんと二人で話がしたいの。少しだけいいかな?」


「えっ?ああ、うん。いいよ。じゃあ俺は外で煙草でも吸ってくるから」


「ごめんね、ありがとう」


 幸太に笑顔で礼を言うと、華月の方へ笑顔を向ける。


「さぁ華月さん、私の部屋でもいいかしら?」


「はい、ありがとうございます」


 深々と頭を下げた華月を連れて、叶は二階へ向かう階段を登って行く。幸太は少し戸惑いながら二人を見送り、屋敷の外へと歩き出した。

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