霊視③
その後志穂や嵯峨良が神谷崎の占いを受け、一通り終わる頃には二時間が経過していた。
「いやぁ皆さんお付き合い頂きありがとうございます。また良かったら何時でも占うんで気になる事があったらおっしゃって下さいね」
人懐っこい笑顔を浮かべて神谷崎が頭を下げると、叶達も軽く頭を下げて食堂を後にして行った。
食堂を出た所で志穂が声を掛ける。
「鬼龍ちゃん達はこれからどうするの?」
「私達はもうちょっと屋敷内を見て回るつもりです」
「そう。私達は少し部屋で休むわね。何か分かったらまた教えてくれる?」
「分かりました。ゆっくり休んでて下さい」
叶が表情を崩す事なくそう言うと、志穂は笑みを浮かべながら手を振り階段を登って行き、嵯峨良もその後を続いて行く。
そんな二人を見送ると、幸太がすぐに横についた。
「叶さん、神谷崎さんの占い凄いよね。当たってなかった?」
少し興奮気味に問い掛ける幸太を見て、叶は笑顔を浮かべる。
「確かに当たってる様に感じるかもね。でもね幸太君、君が言われた事を思い出してみて。これからの二人の事を真剣に考えているって言われてたけどそれって当たり前じゃない?私は君に遊ばれてるの?」
「い、いや、そんな訳ないって」
叶が少し悪戯っぽく尋ねると幸太は慌てて首を振る。そんな幸太を見て叶は更に口角を上げた。
「そうだよね?あと君は自分の悪い所も分かっていてそれを改善しようと試行錯誤もしていると。あと困ってる人は見捨てられないとかだっけ?」
「え?うん、あとは割と真面目とか」
「ふふふ、だよね?」
戸惑う幸太を尻目に叶は含みのある笑みを浮かべる。
「いい幸太君?人は皆、自分が完璧じゃない事なんて分かってると思うの。そして生きて行く中で自分の至らない部分を直していくと思うんだ。あと君の言動を見て、話してたら君が一般的な倫理観を持ってる人だって分かると思うし、そしてそんな人は困ってる人を見捨てようなんて思わないよ。少しは助けようとする筈」
「えっ?……いや、まぁ確かに」
「神谷崎さんが占って言ってた事って実は誰にでも当てはまる事だと思うの。あたかもそれを占いで見えました、貴方はこんな人ですねって言われたら『ああ、自分に当てはまってる』って勘違いしちゃうの。中にはちゃんと視えてる占い師の人もいるけど、殆どの場合、今みたいに会話しながら相手の事を観察して誰にでも当てはまる事をそれっぽく言って信じ込ませてる事が多いのよ」
「じゃあ神谷崎さんはいんちきって事?」
「はっきりとは分からないからそこまでは言わないけどね。誰にでも当てはまる事を自分の事だって勘違いしちゃうのをバーナム効果って言うんだけど、会話術の一つみたいな物。営業の人が使ったり夜職の人が上手く使ったりする事もあるみたいだけど、まずはそうやって人の懐に入り込むのに適してるみたいね」
叶に言われて幸太があらためて思い返すと、確かに言われた通りだった。
幸太が眉根を寄せて少し困惑していると、それを見ていた叶が表情を崩した。
「ごめんごめん、ちょっと意地悪な言い方だった?でもちゃんと視えて占ってる人もいるからね。君は今のまま、見えた物、信じた物を信じたらいいと思うから、君は君のままでいてね」
それでも戸惑う様な表情を浮かべる幸太を叶が覗き込む様に顔を近付ける。互いの視線が交わると、自然と鼓動も高鳴った。
ほんの少し、叶が顔を近付けようとした時、玄関の方から人の気配を感じた。
叶がすぐに振り向き、玄関に視線を向けるとすぐに扉が開き、秋義が姿を見せる。
まっすぐ前を向き、眉根を寄せて険しい表情を浮かべる秋義を見て、ただならぬ雰囲気を感じ叶が慌てて駆け寄った。
「秋義さん、あの、奏音さんは?」
駆け寄り不安気な顔をする叶を見て、秋義は一瞬顔をしかめた後、ゆっくりと口を開く。