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狙われたのは?⑦


 部屋に入ると叶はソファに座り、立ち尽くす幸太を見つめて自身の隣をぽんぽんと軽く叩いて笑顔を見せる。


「そんな所突っ立ってないで座ったら?ここ空いてるよ」


 そんな事を言って笑う叶を見て幸太は破顔し嬉しそうな笑みを浮かべて叶の横に腰を下ろした。

 すると叶は横に座る幸太に少しもたれかかると、真剣な眼差しを向ける。


「ねぇ幸太君。君は今回の私達の仕事どう思う?」


 突然の思いがけない問い掛けに幸太は少し戸惑ったが少し考えた後、口を開く。


「難しいんだけど叶さん達がしてる仕事って叶さん達にしか出来ない特殊な仕事なんだと思う。そして会長さんは前の奥さんの事が好きで会いたくて、藁にもすがる思いで叶さんや嵯峨良さん、他の霊能者の人達に頼ったんだろうなって思う。だから前の奥さん絵梨花さんの霊を否定されて受け入れたくなかったんじゃないかな?」


「ふふふ、なるほどね。やっぱり君はいい読みしてると思うよ」


 叶は微笑みながら立ち上がると徐にポットの置いてある方へと歩いて行く。


「叶さん?」


 叶の意図がまだ分からない幸太が呼び掛けるが、叶は振り返り含みのある笑みを浮かべる。


「ふふ、まぁもう少しゆっくりしようよ。珈琲ぐらいいれてあげるからさ」


 そう言って叶はポットに水を注ぎ電源を入れた。やがてお湯が沸き、叶は珈琲をいれて戻ってくる。


「さぁどうぞ」


 幸太の前に珈琲を置き、叶も珈琲を口にする。


 こんな事していてもいいのだろうか?――。


 幸太は疑問を抱きながらも珈琲を口にし、叶との二人の時間を満喫していた。

 そうして暫く二人で過ごしていると、突然扉を軽くノックされた。


 弱々しく響いたノックの音に二人の会話は遮られ、幸太は突然の来訪者に驚いていたが、叶はにやりと口角を上げる。


「はい、どちら様?」


 明るく叶が声を掛けると、扉の向こうからはノックの音同様に弱々しい声が聞こえてきた。


「あ、あの緋根谷(ひねや)華月(かづき)です」


 華月が声を掛け終える頃には叶は扉の前に立っており、すぐに扉を開けて華月を招き入れた。

 部屋に入った華月はソファに座る幸太に気付くと、戸惑う様に頭を下げ、すぐに叶の方へ振り向いた。


「ご、ごめんなさい。私タイミング悪かったですよね?すいません」


 そう言って平身低頭のまま目も合わせず部屋を出ようとする華月の腕を掴み、慌てて叶が引き止める。


「ちょっと待って待って華月さん。別に邪魔じゃないし、寧ろ貴女を待ってたんだから出て行かないで」


 そう言って微笑む叶を華月はキョトンとした表情を浮かべて見つめていた。すると幸太も戸惑いながら声を掛ける。


「あ、あの良かったらこっち座りますか?」


 幸太が立ち上がり自身の対面にある一人掛けの椅子を向けると、華月は少し戸惑いながら俯き、軽く会釈して椅子に掛けた。

 叶も再びソファに腰掛けるとにこやかに華月に問い掛ける。


「ではあらためまして華月さん。何かご用があるから訪ねて来てくれたんですよね?お聞きしてもいいですか?」


 丁寧に質問する叶に対して、華月は一瞬黙り込んだが上目遣いで叶を見つめるとゆっくりと話し出した。


「あ、あの、聞いてくれますか?昨日の夜、奏音さんがスズメバチに襲われたじゃないですか。あれ、ひょっとしたら私がああなっていたんじゃないかと思うと怖くて……」


 訴えかける様に怯えながら弱々しく話す華月を見て、叶が首を傾げる。


「貴女がああなってた?どういう意味?」


 戸惑いながら問い掛ける叶を華月はじっと見つめる。


「皆さんが到着する前、はじめにあの部屋をあてがわれたのは私だったんです。ですが奥の部屋だった奏音さんが『この部屋は嫌!部屋を代えて』と騒ぎ始めたんです。ですが客室は全て埋まってたようで秋義さんが『部屋は代えられない』と怒って言ってらしたんですが奏音さんも譲らなくて……それで私の部屋で良ければ代わりますよって伝えて私と奏音さんの部屋を交換したんです」


「……なるほど、だからあの時貴女は怯えていたんですね?」


「はい、だって代わってなかったら私がスズメバチに襲われてたんですよ」


 瞳を潤ませて訴えかける様に言う華月を見て叶は優しく微笑み頷いていた。


「確かにそうかもしれませんね。ですがそうはならなかった。もう済んだ事ですし、必要以上に怯えなくてもいいんじゃないですか?」


「……確かにそうですけど……鬼龍さんはあれをただの事故だと思ってますか?」


 華月の質問に叶は一瞬眉をひそめた。先程までは弱々しく怯えた様な華月だったが、今は力強く叶を見つめ何かを訴えかけようとしているようだった。

 一瞬にして不穏な空気に部屋が包まれる。

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