狙われたのは?⑥
「志穂さん、それで会長はどんな反応をしてたんですか?」
志穂達から小夜子の事、そして三条に疑念を抱いている事を伝えたと聞いた叶が身を乗り出して問い掛ける。
志穂は少し呆れた様に嵯峨良を見た後、笑みを浮かべて叶の方を向いた。
「ふふふ、会長は小夜子さんの霊がいまだいるとは思ってなかったみたいで少し動揺していたわね。まぁ小夜子さんの霊が居座る中、絵梨花さんと再婚したんだからまぁ分からなくもないけど。ただ、三条さんの事を先生が口にした途端雰囲気は変わったわね。少し怒りとか苛立ちの様なものを感じた。それは私達に対してなのか、三条さんに対してなのかは分からないけどね」
「なるほど……」
志穂から当時の状況を聞かされ叶は目を閉じ思慮を巡らせた。すると志穂が笑いながら更に続ける。
「まぁ絵梨花さんの霊が視えないって所でやめておけば会長の機嫌を損ねる事もなかったんだろうけど、ウチの先生があえて波風立てちゃったからねぇ」
志穂が嵯峨良に意地悪な笑みを向けると、嵯峨良はバツが悪そうに俯いていた。それを見て叶は呆れた様にため息をつきながら冷笑を浮かべる。
「まぁ嵯峨良さんが言っちゃったんだからもう何を言っても仕方ないじゃないですか。寧ろあの人が何をしたいのか分かるかもしれないし」
「ふふふ、そうよねぇ。案外先生の余計なひと言がターニングポイントになってたりして。ただそうなると事態はもう動き出してるかもね。ここからは視野を広げて全体を見なきゃ。うかうかしてたら分水嶺をいつの間にか通り越して、誰かが作った流れにずっぽり……」
志穂は笑みを浮かべながらそう言ってサラダにフォークを突き立てて見せた。
「……なんて事になったら面白くないもんね」
突き立てたフォークを抜き、志穂が先に刺さったレタスを口に運ぶと叶は冷たく見つめながら再びため息をついた。
「志穂さん、お行儀が悪いですよ。ただ確かに他人に踊らされるのは面白くないですね。ここからは慎重に行きましょうか」
「そうね。案外小心者の方が上手く生きて行く事もあるしね」
小心者、そういえば――。
志穂の言葉を聞き、ふと華月の事が頭をよぎった叶は朱里や華月がいるテーブルに目を向ける。するとそこには義人も加わり食事をしている三人がいた。相変わらず義人と朱里が楽しそうに笑い、華月は控えめに笑っている様にも叶には見えた。
あの日の夜、あの子は何かを伝えたそうにしてた……あの子は何が言いたかったの?――。
叶が昨夜の事を思い出し思慮を巡らせていると、叶の視線に気付いたのか、華月が視線だけを叶に向け微かに頷く様な素振りを見せた。
何?今何か合図を送った?――。
華月の微かな仕草を見て叶は一瞬考えたが、華月はすぐにいつも通り朱里達の方を向いて合わせる様な笑みを浮かべていた。
そんな僅かな叶の戸惑いを感じ取ったのか、志穂が首を傾げて問い掛ける。
「鬼龍ちゃん、どうかした?」
「えっ?いえ、ちょっと考え事ですよ。それより午後からもあちこち見て回らなきゃいけないんですからそろそろ行きましょうか」
突然切り上げるかの様に立ち上がった叶を見て志穂はゆっくりと口角を上げて含み笑いを浮かべた。
「えぇそうね、確かに鬼龍ちゃんの言う通り昼からも動き回らなきゃいけないしね」
そうして四人揃って立ち上がると志穂の方から問い掛ける。
「私達は屋敷の外も見回ってみようかと思ってるんだけど鬼龍ちゃん達はどうするの?」
「私達はまた屋敷の中を見て回ろうと思います」
「そう、じゃあまた何か分かったら教えてね」
志穂は笑みを浮かべたまま手をひらひらと振って嵯峨良と共に食堂を出て行く。
それを見送る様に佇んで見つめていると、池江が歩み寄り不意に問掛ける。
「鬼龍様、お屋敷の中ご案内しましょうか?」
「いえ、今は大丈夫です。少しだけ部屋で休んでいようと思ってるんで」
そうはっきりと口にした後、幸太と共に食堂を後にした。
食堂を出た所で少し戸惑う様な表情を浮かべて幸太が問い掛ける。
「叶さん。いいの?部屋で休んでても。志穂さん達はまだ見て回るって言ってたのに」
「まぁまぁ、焦ってもしょうがないし、霊だって都合良く現れてくれないしさ。それに果報は寝て待てってことわざもあるでしょ」
戸惑う幸太とは裏腹に、叶は明るい表情で最後はウインクまでして笑顔を浮かべる。
叶はそのまま歩き出し慌てて幸太がその後を追って行く。
やがて二人は部屋の前に立つと、幸太の手を取り叶は自室へと入って行った。




