狙われたのは?⑤
一方、叶達が池江の案内で屋敷の一階を探索して回っている頃、嵯峨良と志穂は義将会長の部屋を訪れていた。
「……ではあなた方は小夜子の霊が視えるというのだな?」
椅子に鎮座し嵯峨良と志穂に鋭い視線を送りながら義将が問い掛けると、嵯峨良と志穂は俯いたまま頷いていた。
「はい。私共は小夜子さんという方がどのような方だったのか存じ上げませんので正確には視えていた方が小夜子さんなのかは分かりませんが、薄い水色の着物を着た黒髪の女性が会長の横に座っておられました。年齢は恐らく四十代ぐらいではと推測しています」
嵯峨良の丁寧な説明を聞き、義将は目を瞑って「う~ん」と静かに唸り声を上げていた。
部屋に僅かな緊張感が張り詰める中、嵯峨良がゆっくりと一歩前に出ると静かに一礼した。
「義将会長、もしよろしければ小夜子さんのお写真等をお見せ願えないでしょうか?そうすればもう少し正確に分かるかと思います」
嵯峨良が落ち着いた口調で要望すると、義将は小さく頷き近くにいた使用人を呼び何やら指示を出す。使用人は深々と頭を下げると足早に部屋を出て行った。
少々気まずい空気の中三人が部屋に残っていると暫くして使用人が箱のような物を手に持ち戻って来ると、嵯峨良の横に立ち箱を差し出し蓋を開けて中身を見せる。
「こちらをどうぞ」
使用人が差し出した箱の中を見つめて、嵯峨良はその中から一枚の写真を取り出した。後ろで控えるようにしていた志穂も興味津々とばかりにその写真を覗き込むと嵯峨良と目を合わせて頷く。
「この写真に写っている女性。この方が私が視た女性ですね」
そう言って嵯峨良は写真を義将に向けた。嵯峨良が示した写真には着物姿で正面を向いて微かに微笑む女性が写っており、その写真を見つめて義将は再び「う~ん」と唸り黙り込んでしまった。
再び部屋が張り詰めた空気に支配される中、暫くして義将が口を開く。
「……その写真に写っているのが小夜子だ。やはり小夜子もこの屋敷にとどまっているのか」
義将がそう言って頭を抱える様な素振りを見せると嵯峨良が再び一礼して前に出る。
「会長、一つだけよろしいでしょうか?実は三条氏が視えるとおっしゃる絵梨花さんの霊なんですが、我々には視えません。それどころか気配すら感じられません。私は正直三条氏の言動には疑問を抱いております」
「それは三条が嘘をついていると言う事か?」
義将が鋭い視線を向けて尋ねると嵯峨良は気圧されたかの様に後退りし視線を落とした。
「いえ、その、自分には絵梨花さんの霊は感じられないという意味です。絵梨花さんの霊を否定しているという事ではございませんので」
「……まぁそなた達の言いたい事は分かった。このまま霊視を続けてもらいたい」
「はい、では失礼します」
嵯峨良と志穂は深々と頭を下げて一礼すると部屋を後にした。
少し項垂れて歩く嵯峨良の横に志穂がすっと付いた。
「……先生、珍しく予定にない事まで喋ってましたね?何か考えでも?」
「えっ?いや、ほら皆も三条さんの言動には嫌気がさしていたじゃないか。だから会長にも注意喚起をと思って」
やや躊躇いがちに嵯峨良が告げると、志穂は小さく頷きながら見下す様な笑みを浮かべる。
「そうですか、先生なりに考えてという事ですね。ふふふ、良いと思いますよ。これからの展開によっては……ふふふ」
全ては語らず、含みを持たして志穂は笑い、嵯峨良は苦笑いを浮かべながら二人並んで歩いて行く。
そんな時、前から叶と幸太が池江を伴って歩いて来た。
「あら鬼龍ちゃん、順調?」
「ええ、まだ回りきれてはないんですけどね。会長の所に行ってたんですよね?」
「ええまぁね。その辺もふまえてお昼にでも話し合いましょ」
「分かりました。じゃそれまでに私達も見れる所は見ておきます」
そう言って互いに別れて調査を続行する事となった。そして数時間後、食堂で昼食を食べながら叶達と志穂達は互いの情報をすり合わせていく。




