幕開け
様々なドリンクが置かれたテーブルを前にして奏音と二人で並び叶は悩んでいた。
さて何を頂こうかな?まったりと呑むのもいいけど、気分的にはサッパリしたいしな――。
そんな事を考えながら叶はテーブルの真ん中にあるワインに手を伸ばす。白のスパークリングワインを手に取り、横にいた奏音に微笑み掛けた。
「折角だし少し高そうなワイン頂いてもいいですよね?奏音さんもどうですか?スッキリ飲みやすいと思いますよ」
そう言って悪戯っぽく笑う叶を見て、奏音もニヤリと口角を上げる。
「あらいいわね。でも私ブドウアレルギーだからワイン駄目なのよ。私はハイボールにしとくわ」
「あっ、そうなんですか。じゃあ仕方ないですね」
少し驚き、残念そうに叶が笑うと奏音も笑みを見せ、二人はそれぞれ飲み物を手にしテーブルへと戻って来る。
二人はそのまま軽くグラスを合わせると、それぞれグラスを傾ける。心地よい炭酸が喉を潤し、ほんのりとブドウの酸味が口の中に広がった。
「奏音さん、ブドウ以外にもアレルギーはあるんですか?」
叶の質問に奏音は笑みを浮かべて小さく頷く。
「ええ、色々とね。フルーツなら桃やキウイ、あと松茸や青魚も駄目かな」
「結構駄目なんですね。やっぱり不便ですか?」
「どうかな?昔からずっとアレルギー体質だからそんなに不便だとは思わないわよ。甲殻類や卵、小麦粉とかは食べれるしね。その辺も駄目なら不便だったかもね」
そう言って奏音が眉を八の字にして笑みを見せると、叶も一緒になって笑みを浮かべる。
その後食堂では各々が思い思いの時間を過ごしていると、突然義人が立ち上がり声を上げる。
「さぁ皆さん、お楽しみだとは思いますが明日からが本番です。今日はここら辺でお開きとしましょうか」
義人の声を聞き、叶が自らの手首に視線を落とすと、腕時計の針は午後十時を回った所を指していた。
「もうこんな時間かぁ」
「早いわね。でも貴女のおかげで有意義な時間を過ごせたわ、ありがとうね」
「いえいえ、私も奏音さんのおかげで楽しかったですよ。ありがとうございました」
叶が立ち上がり軽く頭を下げると、奏音も立ち上がり軽く手を振り食堂を後にして行った。
叶も手を振り奏音を見送ると、元いた自分のテーブルに視線を向ける。そこでは幸太と嵯峨良が二人並んでグラスを傾けていた。
「ごめん幸太君、放ったらかしになっちゃったね。嵯峨良さんすいません、幸太君を任せちゃって」
叶が歩み寄り声を掛けるが、二人は笑みを浮かべながら頭を振った。
「いやいや、幸太君は音楽なんかの造詣が深くてね。僕も話していて楽しかったよ」
「いえ、自分も話していて楽しかったですよ嵯峨良さん。またバンドについてお話しましょう」
そう言って二人は固い握手を交わしていた。
そんな二人を見つめながら叶が首を傾げて嵯峨良に問い掛ける。
「そう言えば志穂さんはどうしたんですか?」
「ああ、陸奥方君は何か屋敷を探索するって言って三十分前ぐらいに出て行ったよ。勝手に部屋に入って怒られたりしてなきゃいいんだけど」
眉尻を下げて苦笑いを浮かべる嵯峨良を見て、自由な志穂なら確かに有り得ると思いながら叶も苦笑していた。
三人は立ち上がり食堂を出ると、ちょうど玄関から戻って来たと思しき志穂と目が合った。
「あっ、志穂さん」
叶の声を聞き、志穂も叶達を見つけると笑みを浮かべながら歩み寄る。
「あら、三人揃ってどうしたの?ひょっとして宴はお開き?」
「そういう事です。嵯峨良さんが志穂さん何処か入っちゃいけない部屋に入って怒られてないか心配してましたよ」
悪戯っぽい笑みを浮かべる叶の横で嵯峨良が慌てて首を振っていたが、志穂は口角を釣り上げて笑みを浮かべる。
「へぇ、流石先生優しいんですね。ご心配をお掛けして申し訳ごさいません」
「いや、違う、その、変な意味じゃなくてさ……」
嵯峨良の肩に手を添え、志穂が笑みを浮かべて顔を覗き込むと、嵯峨良は必死に弁明していた。
そんな二人を尻目に叶は笑顔で語り掛ける。
「じゃあ私達はそれぞれ部屋に戻りますよ」
「あら、そうなの?おやすみなさい。明日は屋敷中霊視しなくちゃいけないんだからちゃんと休んでよ」
「分かってますよ。ではおやすみなさい」
助けを求める様な目で見つめる嵯峨良を横目に、叶と幸太は二階へ上がる階段を登って行った。
「じゃあ今日はゆっくり休もうか」
部屋の前で互いに手を振り部屋に戻った叶はシャワーを浴びるとベッドで横になった。
「……さて今日も一日色々あったな……」
今日の出来事を振り返りながら一人呟き、叶はいつしか眠りについた。
そして真夜中、女性の声で目を覚ます。




