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視えていたもの②


 少し張り詰めた空気の中、叶の明るい声が弾む。


「あはは……まぁ別に隠すつもりもないんですけど、私が視えたのは薄い水色の着物を着た女性。黒髪をまとめてアップしてる年齢は四十代から五十代ぐらいかな?空いてる会長の横の席に座って時折会長の方を見たりしてじっと全体を見つめていた」


「なるほどね、会話は出来そうだった?」


「分かりません。近寄り難い雰囲気は纏ってましたけどね」


「そっか、三条さんが得意気に話してた時に言ってやればよかったのに」


「大人しくしとけって誰かさん言いませんでした?」


 薄目で志穂を見つめると、志穂は頭を掻きながら誤魔化す様に笑う。

 

「あはは、そうだったね。まぁ何よりあの人がどんな魂胆であんな事言い出したのか探る為にも、暫く泳がせとくのもありかもね。それはそうとなんか冷えない?」


 志穂が少しわざとらしく両腕を擦りながら問い掛けると、叶も眉尻を下げて小さく頷く。


「そうですね。森の中だからかな?そろそろ戻りましょうか」


 そうして三人は屋敷の中へと戻って行った。

 食堂に戻った叶がさっと見渡すと、一人ぽつんと座りグラスを傾ける奏音が目に付いた。叶はゆっくりと歩み寄り、空虚な瞳で一人座る奏音に声を掛ける。


「横座っても大丈夫ですか?」


 叶から突然問い掛けられて、奏音も一瞬驚いたような表情を見せたがすぐに柔和な笑みを浮かべて頷く。


「ええ、どうぞ。せっかくのパーティなのに彼氏やお友達はいいの?」


「少しぐらいいいですよ、子供じゃないんだから。奏音さんこそいいんですか?秋義さんの傍にいなくても」


 叶の問い掛けに奏音は意味深な笑みを浮かべると、小さなため息をついて軽く頭を振った。


「貴女、そんな鈍い子じゃないでしょ?私達見てたら分かるんじゃない?私と秋義君はもう冷めきってるのよ」


 叶は苦笑いを浮かべるも、それでも食い下がるように問い掛ける。

 

「でも婚約者なんですよね?」


「婚約者って言っても家同士が決めた事。私達の意思じゃないわ。まぁそれでも一応家の為、親の為と思って頑張ってはいたんだけどね……」


 そう言って別のテーブルで義人や朱里や華月と楽しそうに笑う秋義を見つめて寂しそうに儚い笑顔を見せた。


「……余計なお世話だとは思いますが、まだ納得はされてないんじゃないですか?」


「まぁね、はじめは家の為だったけど、それなりの時間、二人で過ごしたりもしてたしね……でも私一人が納得出来ないからって言っても、向こうに気がないならどうしようもないじゃん。恋愛や結婚て一人でするものじゃないでしょ?」


「言ってる事は分かりますが、逆に相手一人の意見で終わらせるのも違うと思いますよ……まぁ相手あっての事なんで難しいんですけどね」


「貴女、他人(ひと)の人生相談も乗ったりするの?」


 そう言って奏音が笑うと叶も一緒になって笑みを浮かべた。


「ははは、そんなつもりはないんですけどね。強いて言うなら、なんとなく。ただなんとなく気になったって感じです」


「あはは、いいね。変なおべんちゃら並べる連中より全然いい」


 そう言ってひとしきり笑うと奏音は目の前にあったグラスを手に持ち、空である事をアピールする様に二、三度軽く振って叶に微笑み掛ける。


「まぁ、シラフで話すのもなんだし飲み物取りに行かない?」


「そうですね、行きましょうか」


 そう言って二人立ち上がると料理が並べられている長テーブルへと歩いて行く。

 長テーブルでは、先にいた華月が両手に持ちきれない程の皿に料理を乗せて悪戦苦闘を繰り広げていた。


「えっ、ちょっと大丈夫?」


 思わず叶が声を掛けると華月は目を合わせる事なく申し訳なさそうに頭を下げると小さな声で呟く。


「すいません、そこにあるエビチリのお皿、真ん中に乗せてもらえませんか?」


 消え入りそうな声でそう呟き、皿を抱えた両手を差し出した。叶は困惑しながらも言われた通りエビチリの乗った皿を華月が持つ皿と皿の間に乗せると、華月は再び会釈するように頭を下げて朱里達がいるテーブルへと戻って行った。


「ああ、やっと戻って来た。はい、ありがとうね」


 軽く言って華月が持って来た食事に手を付け、義人達と歓談を始める朱里を見て叶は眉根を寄せる。

 

「大丈夫なの?あの子……」


 叶が少し呆れたように見つめていると、横に立つ奏音もうんざりした様に口を開いた。


「いつもよ、あの子達。ずっとああいう関係性なんでしょうけど……見ていて気分がいい物じゃないわよね」


 奏音は冷たく言ってすぐに振り返りテーブルに並んだドリンクに目をやる。


「さぁ飲みましょ」


 奏音に促され、叶も苦笑して振り返ると並んだドリンクを選び始める。

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