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視えていたもの

 叶は食堂を出ると、近くにいた若い男性の使用人に声を掛ける。


「すいません、煙草吸える所って何処かありますか?」


「あ、屋敷の中は禁煙になってまして、煙草は屋敷の外でお願いします。正面の玄関を出た所に灰皿がありますのでそちらでお願いします」


 池江と比べると少し崩したように接し、屋敷の外を指さして説明する使用人に、叶はにこやかに頭を下げる。


「ありがとうございます」


 丁寧に礼を伝えると玄関をくぐり外に出た。玄関を出た横に灰皿を見つけ、叶は徐に電子タバコを咥え紫煙をくゆらせていると、幸太がすぐに駆け寄る。


「叶さん」


 叶を見つけ、笑みを浮かべて駆け寄って来る幸太を見つめていると、思わず叶も明るい気分になる。


「追い掛けてきてくれたんだ?」


「そりゃあね。何か気に障った?」


 少し心配そうに尋ねる幸太を見て、叶も思わず眉尻を下げて笑みを浮かべた。


「気使わせちゃったね、ごめんね。なんとなくね……気に入らないのよ、霊能者を名乗る奴らって……」


 叶の言葉を聞き、困惑した表情を浮かべる幸太を見て、叶は更に苦笑いを浮かべた。


「ははは、ごめんごめん、訳が分からないか。言葉が足りなかったね。要はね、霊能者を名乗って適当な事を言ってる連中が嫌いなのよ」


「えっ?それって、ひょっとしてさっきの女の人が言ってた事ってデタラメって事?」


「はっきりとはわからないけど、少なくともあの三条って人が言ってた女性の霊は私には視えなかった。特定の人にしか視えない霊もいるけど、気配すら感じなかったしたぶん今回は違う」


 少し遠い目をしてそのまま黙り込んでしまった叶を見つめて幸太は戸惑い言葉に詰まってしまった。

 叶が示す嫌悪感は恐らく彼女の今まで歩んで来た人生が関係しているのはなんとなく理解出来た。たが幸太は叶の根底にある暗い部分に、安易に触れていいのか?何処まで踏み込むべきかと悩み、そしてそっと寄り添う様に肩を抱いた。


「えっ、幸太君?」


 突然の抱擁に戸惑う叶だったが、幸太はしっかりと抱き締める。


「ごめん叶さん。俺、たぶん情けなくて、たいした役にも立たないけど、俺は何があっても叶さんの味方だし、愚痴や不満もいくらでも聞くから、叶さんは叶さんらしく歩いて行ってくれたらいい。俺も一緒に横を歩くから」


 そう言って抱き締める幸太を見つめ、叶も力一杯抱き締める。


「……ありがとう。君がいるから私はもう大丈夫」


 自身の腕の中ではにかんだ笑みを浮かべる叶の頭を幸太がそっと撫でると、叶は幸太の首に腕を回して二人はそっと唇を重ねる。

 二人だけの緩やかな時間に波立っていた叶の心も穏やかになっていた。


 それから暫く二人で他愛もない会話を重ねていたが、不意に叶が軽くため息をついて後ろを振り返る。


「遠慮せずにこちらに来たらどうです?」


 幸太は訳が分からずキョトンとしていると、物陰から志穂が笑みを浮かべて顔を覗かせた。


「あはは、気付かれちゃった?私も一服しに来たんだけど、なんか邪魔しちゃ悪いかなぁって思って様子を伺ってたんだけどさ」


「なんか逆に覗かれてるみたいで嫌ですよ、それ」


「ははは、まぁそっか」


 叶が少し嫌味っぽく言って笑みを浮かべると、志穂も笑いながら歩み寄り煙草を咥えた。


「それで?あれから食堂(むこう)の様子はどうでした?少しは落ち着きましたか?」


 叶が問い掛けると、志穂は咥えた煙草に火をつける。煙草の先端が一際赤くなり志穂が「ふぅ」と煙を吐き出す。


「まぁ皆貴之社長については触れちゃいけないような雰囲気にはなってたけど一応は終息した感じ。だけど義将会長は三条さんが言ってた事が気になったみたいで呼んで色々と聞いてたみたいだけどね」


「へぇ、それであの人なんて答えてたんですか?」


「なんかね、三条さん曰く、女性の霊がずっと心配そうに見つめて訴えかけてくるんだって『このままでは斗弥陀は危ない。早く改革を進めて』と」


「ふ~ん……志穂さんはどう思います?」


「三条さんが言ってる女性の霊は亡くなった絵梨花さんの特徴と一致する。だけど、少し調べれば絵梨花さんの外見的特徴なんかすぐに掴める訳だし、ようは胡散臭さ満開って感じ」


「なるほど、でも義将会長は信じちゃってる感じなんですよね?」


「えぇ、残念ながらね……それで一つ聞きたいんだけど、貴女は何が視えてたの?鬼龍ちゃん」


 志穂の問い掛けに意味が分からずぽかんとした表情を浮かべる幸太に対して、叶はすぐに答える訳でもなくただ口角を釣り上げて不敵な笑みを浮かべていた。

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