斗弥陀邸にて③
「相関図ですか?」
「ええ、ちょっと複雑なのよ。まず斗弥陀グループは義将会長が一代で築いた総合商社って事は前にも言ってたとは思うんだけど、義将会長が二十代半ばで小夜子さんという女性と結婚するの。だけど中々子宝に恵まれなくてね、跡取りが欲しかった義将会長は三十歳の時に養子を迎える事にしたみたいで、それが今の貴之社長よ」
「なるほど、貴之社長は養子なんだ」
「ええ、義将会長は貴之社長が幼少期の頃から色々な事を学ばせていたみたいなの。そして義将会長が五十歳の時、小夜子さんが四十八歳で亡くなった。死因は心臓発作らしいわ。義将会長は悲しんだらしいんだけど、その失意のどん底にいた義将会長を支えたのが若くて綺麗な絵梨花さんという女性。絵梨花さんは義将会長を献身的に支え、やがて義将会長の再婚相手となったの。この時、義将会長が五十三歳、絵梨花さんが三十二歳。妻となった絵梨花さんはやがて二人の子供を産んだわ」
「ひょっとしてそれが義人さんと秋義さん?」
兄弟のわりに長男貴之と義人、秋義の年齢が離れているとは思っていた叶だったが、合点がいったのか目を一際大きくさせて問い掛けると、志穂は笑みを浮かべながら頷く。
「そういう事。年齢を重ねてからの子供って事もあって義将会長は二人をかなり可愛がってたみたい。やがて妻の座についた絵梨花さんも会社の経営にあれこれ口を挟むようになっていったみたいなんだけど、これが功を奏したのか斗弥陀グループは更に発展していった。結局今の斗弥陀は内側からしっかりと支えた小夜子さん、そして的確なアドバイスを送った絵梨花さんという二人の女性の功績があって大きくなったと言っても過言ではないって所かな。ただ最近になってまた変化が訪れた。それが絵梨花さんの死」
「再婚相手の絵梨花さんも亡くなったんですか?」
「そうみたいね。半年前、絵梨花さんは心臓発作で亡くなった。二度も最愛の人を亡くした義将会長はさすがに塞ぎ込んで体調も崩しちゃったみたい」
ここまで聞いた叶は廃病院に向かう時に、運転手の横山のセリフを思い出していた。
「そういえば廃病院に向かう時も運転手の人が〝近しい人を亡くされて会長も塞ぎ込んでる〟みたいな事言ってたわ」
「そうでしょ。私達みたいな霊能者を集める理由、その辺にあるんじゃないかなって私は思ってるんだけどね」
「なるほどねぇ……」
「で?鬼龍ちゃん、ここに着いてから奥さんの霊は見てない訳?」
「見てませんよ。そんな都合よくほいほい出てきてくれる訳ないじゃないですか。まぁもし見かけたら教えますよ」
「よろしくね、こっちも何か分かったら教えるからさ」
そう言って志穂は立ち上がり笑みを浮かべると、ソファに座る幸太に軽く手を振りながら部屋を出て行った。志穂を見送り戻って来ると、叶は幸太の対面の椅子に腰を下ろして憂鬱そうに頬杖をつく。
「なんか重いねぇ。君と過ごした夏の日々が懐かしく思えてきたよ」
眉根を寄せて、少し困った様に笑う叶を見て、幸太も苦笑いを浮かべる。
「まだそんなに経ってないのに。でも確かにあの時は皆で笑って楽しい時もあったからね。そういえば咲良ちゃんが叶さんに会いたがってたよ」
「あはは、そっか。また四人であの焼き鳥屋に行きたいな」
そう言って叶が笑うと、二人で思い出話に花を咲かせ、とりとめのない話で盛り上がっていく。
そうして一時間が経った頃、部屋に扉をノックする音が響く。
「倉井様、いらっしゃいますか?」
静かな落ち着いた池江の声が聞こえ、幸太は立ち上がると同時に「はい」と声を掛けて扉に歩み寄る。扉を開けると池江はお辞儀をする様に頭を下げていた。
「おくつろぎの所申し訳ございません。旦那様の支度が整いましたので下の食堂にお集まり下さい」
そう言って池江は頭を上げると、部屋にいた叶に気が付き再び頭を下げる。
「鬼龍様もこちらにおいででしたか。鬼龍様も食堂の方にお越しください」
「わかりました、すぐに行きます」
叶は笑顔を浮かべて立ち上がると、幸太の手を取りそのまま部屋を出て行く。池江は頭を上げると二人の前に静かに立ち、先導する様にゆっくりと歩き始めた。




