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ホテルにて


「それで一人で朝食って嵯峨良さんはどうしたんですか?」


 叶が冷めた口調で尋ねると志穂はいつも通りの笑顔を向ける。


「あの超低血圧が朝からバイキングなんか来れる訳ないでしょ。せいぜい椅子に腰掛けてコーヒー飲むのが関の山よ。それに先生はビジネスパートナーよ、貴女達みたいに常に一緒にいる必要はないの」


「まぁそうかもしれませんけど……」


 叶が少しため息をつきながら苦笑いを浮かべると、幸太が(おもむろ)に立ち上がる。


「ちょっと料理取ってきますね」


「あっ、ごめんなさい。私飲み物取って来るの忘れちゃって、ついでに取ってきてくれないかしら?」


「あっ、いいですよ。アイスコーヒーとかでいいですか?」


「ええ、お願いします」

 

 志穂が眉尻を下げて申し訳なさそうに頼むと、幸太は笑顔で了承し歩いて行った。

 志穂がそんな幸太を振り返って見送っていると横から叶が冷たく呟く。


「ひとの彼氏使うのやめて下さい。それとも何かありますか?」


 叶の質問に志穂は口角を釣り上げる。


「ふふふ、流石分かっちゃた?彼が戻って来る前に聞いとこうかしら。思ったより本気みたいね。彼、良い人だとは思うけどいいの?信じて?」


「……いいんじゃないですか?それにそういうのって理屈じゃないでしょ?私、志穂さんみたいにクールにはなれないみたいです」


「ふ~ん、まぁ私がとやかく言う事でもないんだけどね。それに貴女も分かってるでしょうけど、私達がいる業界は胡散臭い連中も多いし、特殊なんだから彼を巻き込むならそれなりの覚悟が必要よ。貴女にも倉井幸太君にも」


「……ええ勿論分かってますよ。何より今私の目の前にいる人が一番胡散臭いんですけど?それに私は幸太君を信じるって決めたんで」


 そう言って力強い瞳で志穂を見つめて微笑むと、志穂も笑みを浮かべて吐息を漏らした。


「お熱いわね。まぁ鬼龍ちゃんがそう言うならそれでいいんだけどね」


 二人そんな事を話しながら食事を進めていると、幸太が食事と三人分の飲み物を持って戻って来た。


「叶さんもコーヒーで良かった?アイスティーの方が良かったかな?」


「ああごめん、私の分も取って来てくれたんだありがとう。コーヒーでいいよ」


 そんな二人のやり取りを見て、志穂は幸太が持って来てくれたコーヒーを一気に飲み干すと笑みを浮かべて席を立った。


「それじゃ私は部屋に戻るわね、倉井君ありがとう」


「えっ、あっ、はい」


 自分が戻って来てすぐに席を立った志穂を、呆気に取られて見送っていると志穂がすぐに笑みを浮かべて振り返る。


「そうそう、この後チェックアウトしたらその足で車に乗って斗弥陀邸に向かうみたいよ」


「えっ?車で?斗弥陀邸って何処でした?」


 驚く様に叶が反応するが志穂は笑みを浮かべたまま軽く首を傾げる。


「確か愛知って言ってたかな。時間に縛られる公共交通機関は嫌らしいよ。時間がかかってもゆっくり自分達のペースで行きたいんでしょ。まぁここから愛知辺りなら車で行くのも苦にはならないだろうしね」


 そう言って振り返り、歩いて行く志穂の後ろ姿を見つめながら叶がため息を漏らす。


「あくまでも自分達の都合で動く訳ね、もう好きにしたらいいわよ」


 叶が呆れて呟くと幸太も苦笑いを浮かべる。


「まぁまぁそれでも俺は叶さんと一緒にいられるからいいんだけど」


「まぁそれはそうなんだけど、全部向こうの都合のいいように進んで行くのが気に入らないのよね。まぁお金出してるのも斗弥陀だから仕方ないんだけど」


「そうだよ、それに向こうはお客さんなんでしょ?」


「まぁそうなんだけどねぇ」


 頬杖をつきながら少し頬を膨らます叶を幸太が宥めていた。


「それはそうと陸奥方さんとは仲良いんだよね」


「志穂さんと?そうかな?まぁそれなりに長い付き合いかもしれないけど」


「だって陸奥方さん、にこにこして俺や他の人達には愛想良いけどなんか壁みたいなの感じるし。叶さんと喋ってる時が本当のあの人なんだろなって思うから」


 幸太の言葉を聞いて叶はにんまりと笑う。


「幸太君、多分君が正しいよ。そうやって人の本質を見抜く君の感性凄く良いと思う」


 そう言って笑う叶を見て、幸太も少しくすぐったい気持ちになりながら照れ笑いしていた。

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