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ホテルにて④

 その後二時間が経過しても警察は部屋で叶に事情を聞いていた。


「だから何度も言ってますよね?枯れた井戸を降りて行ったら白骨化した遺体が横たわっていたって」


「いや、それは分かるんですよ。ただなんで井戸を見つけて降りて行く気になったのか?普通は井戸見つけたって中に降りようなんてならないじゃないですか」


「だから私達は廃病院から出られなくなっていたから色々試してたんじゃないですか」


 またこのくだりか。四回目ぐらいかな――。


 先程から何度も繰り返されるこの押し問答を幸太は少し離れた位置からずっと見つめていた。


「だいたい出られなくなったっていうのも分からないんですよ。それであなた達は三日、あの廃病院に閉じ込められていたと?」


「だからそれも何度も言ってますけど私達の感覚では数時間なんですけどね。まぁ実際は三日過ぎていたんですけど」


「はぁ、駄目だ埒が明かないな。まぁいい、あなた達があの白骨化した遺体に関わった形跡はないから調書には肝試しに来た人達が発見したって書いとくからいいかな?」


 埒が明かないのはどっちよ?――。


 叶は眉根を寄せて一瞬不機嫌そうな顔を見せたがすぐに真顔になるとゆっくりと頷く。


「ええ、構いません。三日ぶりに帰って来られて疲れてるんです。いい加減ゆっくりさせてもらっていいですか?」


 呟くように弱々しく叶が言うと、警察は仕方ないといった感じで頷き部屋を出て行った。

 警察が出て行った扉を見つめて叶が微かに歯噛みする。


「ムカつくな」


 叶の気持ちを代弁するかのように幸太が呟くと、ようやく叶に笑顔が戻った。


「ふふ、ごめんね、ずっと邪魔ばかり入ってるね」


「いや、それよりも警察のあの態度だよ。叶さんがちゃんと話してるのに全然信用しようともしないしさぁ」


 幸太が不満をぶちまけると叶はくすくすと笑っていた。


「いや普通はあんなもんだって。誰も霊や怪奇現象なんて普通は信じてくれないって。まぁ私は慣れてるし……君が話を聞いて信じてくれたらそれでいいから」


 そう言って近付き軽く触れるようなキスをすると、首に手を回したまま抱きついた。


「ねぇ、とりあえずシャワー浴びて来ていい?なんか色々疲れちゃったから」


 そう言ってなめまかしい笑みを浮かべる叶を見つめて、幸太は思わず息を飲んだ。


「う、うん、どうぞ浴びて来て」


 少し緊張しながら幸太が頷くと叶はゆっくりとシャワー室へと歩いて行く。

 やがて十分程で叶は薔薇の香りを纏い、シャワー室から戻って来た。


「流石高級ホテルね、高そうないい香りのボディソープ置いてあるよ」


「ああそうなんだ。確かに叶さんからいい匂いがする」


 そう言ってさりげなく叶の横に座ると、叶が少し艶のある笑みを浮かべた。


「ねぇ幸太君もシャワー浴びて来たら?それから二人でゆっくりしようよ」


「そ、そうだね」


 幸太は頷きシャワー室へと急いだ。


 叶さん色っぽいな……いや焦っちゃ駄目だ。叶さんが言ってたようにゆっくりと話をしながら――。


 シャワーを浴びながら幸太はなんとか自分を落ち着かせていた。逸る気持ちを抑えながら幸太がシャワー室から出て来ると叶はベッドで横になっているのがすぐに分かった。

 思わず息を飲みゆっくりと叶の横に腰を下ろす。


「あ、あのさ叶さん――」


 叶に呼び掛けながらそっと叶に触れる。

 だが叶は特になんの反応も示してはくれなかった。

 不思議に思い叶の顔を覗き込む。


「か、叶さん?」


 幸太が優しく呼び掛けるが叶は目を閉じすこやかに寝息を立てていた。


 えっ?ちょっと待って――。


 思わず幸太も戸惑ってしまう。今、叶を起こすのはさすがに気が引ける。だが先程までの昂った気持ちをどうすればいいのか?様々な思いが込み上げ悶え苦しむ幸太だったがやがて一息つくと、横で眠る叶の頬をそっと撫でた。


「さすがに疲れてるんだな。これ以上叶さんを疲れさせる訳にもいかないから今日はゆっくり寝て下さい。俺ももう寝るから、おやすみ」


 そっと呟き幸太は叶の頬に軽い口づけをすると、自分のベッドへ行き眠りについた。

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