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ホテルにて③

 志穂は振り返ると秋義の方へと笑顔を向ける。


「斗弥陀秋義様、我々にまだ何か用があると?それはどういったご用件でしょうか?今回の御依頼は廃病院の調査だけだった筈ですが?」


 あえて丁寧な物言いで志穂が問い掛けると、座っていた義人が少し頭を掻きながらゆっくりと立ち上がる。


「ああ、それだけの筈だった。だが今回の件を父親であり会長の斗弥陀(とみだ)義将(よしまさ)に話したらあんたらに会ってみたいって言いだしたんだ。だからこの後、俺達と一緒に斗弥陀家まで来てもらう」


「えっ、ちょっと待って下さい。私もですか?私はその、なんて言うか帰りたいのですが……その……」


 叶が慌てて会話に入り幸太の方を見ながら言葉を濁していると、義人が少し語気を強める。


「ああ彼氏が来てるからだろ。それでもうちの親父は言い出したら聞かないんだからその彼氏も一緒でかまわないから来てもらう。そっちの秘書さんと嵯峨良さんも一緒だ。もちろん交通費やこの件にかかる全ての金は斗弥陀で払う。異論はないよな?」


 全ての異議を認めない。そんな雰囲気で義人が問うが叶は頷く事もせず口を(つぐ)んだ。

 一瞬重い空気が漂うが、静まり返った静寂を切り裂くように志穂が口を開く。


「なるほどそういう事ですか。わかりました嵯峨良先生に私陸奥方志穂、それに鬼龍叶と倉井幸太氏、四人皆さんに同行いたします。では支度等もありますので一旦部屋に引き上げさせていただきます」


 そう言って志穂は頭を下げると嵯峨良と共に部屋を出て行く。そして無言のまま叶と幸太も志穂達に続いて部屋を後にした。


 しかし部屋を出た所で叶が志穂に詰め寄る。


「ちょっと志穂さん、私聞いてませんけど」


 眉尻を釣り上げ語気を強めて詰め寄る叶に対して、なだめるように志穂が微笑む。


「まぁまぁ、私だって聞いてないんだし、それに断れる雰囲気じゃなかったでしょ?お仕事だと思ってさ。それにこんな高級ホテルに泊まれるんだし、もう彼氏との時間も邪魔したりしないからそんなに怒んないでよ」


「……もう十分邪魔されてるんですけど。仕事っていうならちゃんと報酬いただきますからね」


 そう言って叶は幸太の手を引くと足早に立ち去った。二人で部屋に戻ると戸惑いながら幸太が問い掛ける。


「叶さんいいの?あんな風に言って陸奥方さん怒らない?」


「いいの。あの人といるといつもあの人のペースに巻き込まれるんだから。ごめんね君も巻き込んじゃったね」


 そう言って自身に抱きつく叶を幸太はそっと抱き締める。


「いいよ俺は。叶さんと一緒にいられる事にもなったし、何より今もこうしていられるし」


 そう言って叶の頭を優しく撫でると叶は首に手を回しすっと踵を上げる。すると叶の体を支えるように幸太も腰に手を回した。

 静かな時間が流れる中、突然部屋の電話が鳴り響き、首に回した手を解くと叶が電話を睨む。

 叶がつかつかと歩いて行き電話を取ると相手は義人だった。


「今警察が来た。話を聞きたいそうだ。そっちに行ってもらっていいか?」


「はい、わかりました。お待ちしてます」


 そっと受話器を置くと幸太の方へ振り向いた。


「次は警察だって。廃病院に斗弥陀に志穂さん、そして警察ってほんとに次から次へとなんなのマジで!?」


 思わず愚痴が口をついて出るが幸太は笑顔で見つめていた。


「はは、ごめんね。せっかく会えたのに私機嫌悪いね」


「いいって。そんな叶さんを見てるのも楽しいから。俺変わってるのかな?ははは」


 そう言って明るく笑う幸太の元に叶がすっと歩み寄る。


「ふふ変わってるかもね。でも私も変わってるからそんな変わってる幸太君が好きなのかな」


 そう言って近付いた時、部屋をノックする音が響いた。

 叶は一瞬顔をしかめたがそれでも構わず幸太と軽いキスを交わす。


「続きはまた後だね」


 少し悪戯っぽい笑みを浮かべて叶はドアの方へと駆けて行く。


 早く帰ってもらってくれ――。


 そんな気持ちをぐっと堪えて、駆けて行く叶の後ろ姿を幸太は静かに見つめていた。

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