再会④
幸太と志穂と嵯峨良を加えた一行は、暫くすると運転手達を待たしている場所を目指して歩き出した。
やがて一行が戻って来ると、それを見た運転手達は歓喜の声を上げる。
「おお、良くぞご無事で」
叶を乗せて来た運転手が駆け寄り声を掛けると叶は笑みを浮かべて軽く会釈する。
「ご心配お掛けしました。帰りは一人増えますがよろしいですか?」
叶が幸太を指し尋ねると、運転手は穏やかな笑みを浮かべて深く腰を折る。
「問題ありません。さぁどうぞお乗り下さい、ホテルまでお連れ致します」
運転手は後部座席のドアを開け二人を促すと、叶に続いて幸太も後部座席に乗り込んだ。
すぐに運転手が運転席に乗り込むと、まずは義人達を乗せた車が出発して行く。続いて興梠を乗せた車が出発し叶と幸太を乗せた車が続いた。最後方に志穂が運転するスポーツカーが続く。
「なんか静かだし座席も柔らかくて高級車って感じがして緊張するな」
革張りのシートに体を沈めて落ち着かない様子の幸太が呟くと叶が笑みを浮かべて話し掛ける。
「まぁ中々こんな高級車に乗る事なんてないもんね。そういえば君はここまで志穂さんとドライブしながら来たんだっけ?」
叶が口角を上げながらやや冷ややかな目で見つめると、幸太は慌てて頭を振った。
「えっ、いや、ドライブとかじゃなくて乗せてきてもらっただけで――」
「ふ~ん、私の知らない所でよく知らない女と二人っきりで車に乗ったんだ」
「いや、その……」
落ち着いた口調で問い詰める叶に対して、幸太がしどろもどろになっていると、それが面白かったのか叶が思わず吹き出した。
「あはは、冗談だってば。そんなに焦らなくてもいいよ。君が私の為に一生懸命になってくれたのはわかってるから」
そう言って叶は笑いながら幸太の頬を優しく撫でる。幸太は自分の頬を撫でる叶の手を取ると、スっと顔を近付けた。
「叶さん、本当に心配したんだから。本当に大丈夫?」
「大丈夫だって。ただ君とこうしてたら、なんだろ、気が抜けたみたいに疲れが一気に来たかな」
そう言って微笑みを浮かべ、幸太からあえて少し距離を取った。
「これ以上君に甘えちゃうと今が仕事だって事忘れそうだから」
そう言って儚い笑みを浮かべる叶だったが、運転手が遠慮がちに声を掛ける。
「あ、あの鬼龍様。私の事は気になさらず車の一部だと思っていただいて結構ですので、車内ではゆっくりとくつろいで下さい」
そう言って運転手はハンドルを握り前だけを見ていたが、叶は眉尻を下げて僅かに首を振った。
「ふふ、お気遣いありがとうございます。ですがやはり仕事中ですし、人前でたわむれるのは性に合いませんので」
運転手は「そうですか」と笑みを浮かべて静かに車を走らせて行く。そう言いつつも疲れている筈なのに声も表情も行く時より明るくなっている叶を見て、つい運転手も笑顔になっていた。
やがて一行を乗せた車が次々とホテルに到着していく。ホテルに着くなり義人に「三十分後に俺の部屋に全員集合してほしい」と告げられ叶は了解すると、用意された部屋の鍵を受け取った。
「そっちの彼氏と同部屋でいいんだよな?」
「ええ、問題ありません、ありがとうございます」
義人が確認すると叶は丁寧に頭を下げ礼を伝えた。叶はそのまま踵を返し後ろで待っていた幸太に微笑みかける。
「行こうか幸太君」
「あ、うん」
叶に連れられるようにして幸太がついて行き、二人はエレベーターに乗ると部屋へと歩いて行く。
部屋に着くと叶は勢いのままベッドに倒れ込んだ。
「ああ、駄目だ本当に疲れた」
言葉とは裏腹に明るい声を弾ませて笑う叶を見て、幸太の心も和らぐ。
「お疲れ様。叶さんが無事でとりあえず良かった」
並んである隣のベッドに腰掛け幸太が声を掛けると、叶が横になったまま顔を向ける。
「ふふふ、ごめんね。けど来てくれて嬉しかったよ」
そう言ってはにかんだ笑みを見せる叶に幸太の胸が高鳴る。