再会
やがて志穂が前に出ると全員を見渡す。
「これでだいたいお互いの状況は掴めましたね。では私と嵯峨良先生、それに倉井幸太さんは廃病院に向かいましょうか」
志穂の言葉を聞き、運転手の一人が慌てて声を上げる。
「えっ?貴方達だけでですか?我々はどうすれば?」
「もし入れ違いで彼等が帰って来たら困りますので御三方はこちらでお待ち下さい。それに嵯峨良先生が現地に行けば後はおまけみたいなものです。私は先生のサポート、倉井さんは恋人である鬼龍さんと一刻でも早く会わせてあげる為に一緒に行くだけです。では参りましょうか」
そう言って志穂が振り返り歩き出すと嵯峨良もそれに続いて行く。少し戸惑った幸太だったが呆気に取られたように固まっている運転手達に軽く頭を下げ、二人の後を追った。
二人に追い付いた幸太が少し顔を覗き込み尋ねる。
「あの、よかったんですか?人数は多い方が良くないですか?」
「ふふふ、それがただの人探しならそうかもね。ただ今回は十中八九、怪奇現象でしょう。だったら素人の方達が何人いても無駄です。私達だけの方が動きやすいじゃないですか、ねぇ先生」
志穂が笑みを浮かべながら最後は声色を変えて嵯峨良を呼ぶが、嵯峨良は無言のまま苦笑いを浮かべていた。
三人はそのまま生い茂る草をかき分けて進んで行く。幸い叶達が数日前に通った時に折れ曲がった草々が廃病院までの道筋となって三人を導く。
やがて十分程で三人は廃病院へ難なく辿り着く事が出来た。
「これがそうか」
嵯峨良が目の前にそびえるコンクリート製の灰色の建物を見て呟く。
横に立つ幸太も小さく頷いていた。
「なんか威圧感というか、まだ明るい昼間なのに不気味な感じがしますね。気のせいですかね?」
幸太が尋ねると、志穂は口角を釣り上げニヤリと笑う。
「ふふふ、いいですねその感性。何も無さそうなのに畏怖の念を感じたり威圧感を感じるというのは、幸太さん、貴方の本能が拒否反応を示しているという事ですよ。〝ここは危ない、近付くな〟ってね」
そういうもんなんだろうか?――。
幸太は少し戸惑いつつも軽く頭を下げる。
やがて敷地に足を踏み入れた嵯峨良と志穂は建物内には入らず、その周りから探索を始めた。
するとすぐに志穂が何かを発見する。
「あっ!先生、すぐに来て下さい」
少し声を弾ませて志穂が呼ぶと、嵯峨良と幸太も志穂の元へと駆け寄った。
「先生、これを見て下さい」
そう言って志穂が指さす方には真っ二つに割れた『慰霊碑』と書かれた黒い石が無造作に置かれていた。
もちろん幸太には霊感等はなかった。だがその割れた慰霊碑を見た瞬間、何故か心がざわつき、嫌悪感を抱いてしまった。
「……なんだろう、なんか嫌な気持ちになりますね」
思わず幸太の口をついて出た言葉を聞き、嵯峨良と志穂は二人揃って穏やかな笑みを浮かべて頷いていた。
「同感です。その感性、大事にして下さいね」
志穂がそう言って幸太に微笑みかけると、嵯峨良は一歩前に出た。
「さぁ陸奥方君、始めようか。倉井君は手を合わせてくれるかな」
嵯峨良はそう言うと顔の前で両手を合わせ、複雑に指を絡ませる。そのまま目を閉じると何かをぶつぶつと唱え始める。
志穂は嵯峨良の後ろに佇み、目を閉じ手を合わせながら何やら唱えていた。
幸太は呆気に取られていたが、すぐに言われた通り手を合わせて目を瞑った。
どうすればいい?何か思った方がいいのか?……叶さんを、叶さんを帰して下さい――。
幸太が戸惑いながらそんな事を考えていた時、肩を軽く叩かれた。
驚き目を開けると、志穂が笑みを浮かべて覗き込んでいた。
「終わりましたよ幸太さん。さぁ探索の続きをしましょう」
「えっ?もう終わったんですか?」
幸太が戸惑いながら問い掛けると、志穂は笑みを浮かべて頷いていた。
「ええもちろん。なんですか?何か物足りない?」
「いや、なんていうか、最後に〝はぁ!〟とか〝かぁ!〟とかあるのかなって」
幸太が少し照れるようにそんな事を言うと志穂は声を上げて笑っていた。
「あはは、なるほどなるほど。まぁ確かにそういう時もあるかもしれませんけど、それはだいたい祓う時ですね。今は霊達をおさめる方なのでそんな〝はぁ!〟とかはしないですよ」
そう言って志穂は、こみ上げる笑いを必死に抑えているように思え、幸太は更に気恥しくなる。
そんな時建物の入口の方から女性の声が聞こえてきた。
「えっ、どういう事?さっきまで暗かったのに……」
三人がそちらに目をやると、数人の人影が目に入った。




