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嵯峨良

 やがて二人が乗った車は山中に入り、志穂はそこにある広場のような所で車を停めた。

 既にそこには数人の男達がおり、幸太と志穂が車から降りると一斉に振り返り視線が注がれる。


 全員の視線を集め幸太が思わず戸惑っていると、一人の男性がゆっくりと歩み寄って来る。


「えっと陸奥方君、この方は?」


「ああ先生、こちらは鬼龍叶さんのフィアンセの倉井幸太さんです」


「えっ、ちょっと、フィアンセとかじゃなくて彼氏です。叶さんと付き合ってる者です」


 志穂が少し笑いながら幸太を紹介するが、幸太は慌てて訂正していた。


「ふふふ、別に似たようなものじゃないですか。倉井幸太さん、こちらの優男(やさおとこ)嵯峨良(さがら)麻璃央(まりお)先生です」


 紹介された嵯峨良麻璃央という男を幸太が見つめる。身長は幸太よりも更に高く、百八十センチを軽く超えているのはすぐにわかった。体躯はかなり細身で、そのせいも相まって背の高さをより際立たせている。

 嵯峨良は穏やかな表情を浮かべており、失礼だとは思ったが志穂が優男と表現したのも思わず頷けた。

 嵯峨良は柔和な笑みを浮かべたまま、幸太にそっと手を差し出す。


「優男と言われてしまったか、ははは。どうもはじめまして嵯峨良麻璃央です。貴方が鬼龍さんの彼氏である倉井幸太さんだね、よろしく」


「あ、はい倉井幸太です、よろしくお願いします」


 慌てて幸太が手を握り返すと、嵯峨良は穏やかな笑みを浮かべ幸太としっかりと握手を交わした。

 嵯峨良は振り返り志穂を見つめる。


「陸奥方君、全員揃った所でひとまずここまでの状況を確認しようか」


「そうですね、じゃあまず先生お願いします」


 そう言って志穂が丁寧に頭を下げると、嵯峨良も軽く頷き奥にいた男達も集まって来る。


「まずはこちらの男性三人は運転手でそれぞれ興梠侍郎氏、鬼龍叶氏、そして彼等の雇い主であり、我々のクライアントでもある斗弥陀義人氏と秋義氏に女性三人を乗せてここまでやって来たそうだ。そうですよね?」


「ええ我々三人はここで廃病院に向かった義人様や秋義様達を見送り待機していました。その後、予定では日没までには戻られる予定だったのですが二十時を超えても戻られない為、我々も廃病院に向かったのです。しかし廃病院には人の気配等も無く、一応呼び掛けたのですが誰からも返事も無く、明かり等も無かった為、我々は仕方なくその場を離れました」


 嵯峨良に話を振られた男の一人が、当時の状況を説明するのを幸太は大人しく聞いていた。するとここまで腕組みをして静かに話を聞いていた志穂がゆっくりと前に出る。


「その翌日に我々の元に〝廃病院に向かった一行が行方不明になった〟と連絡が入った訳ですね?」


「ええその筈です。我々は翌日も捜索していましたが、結局何の手がかりも見つけられませんでした」


 そう言って落胆する運転手の一人を見て、志穂は何度も頷きながら考えを巡らせていた。


「なるほど、そして連絡を受けた我々はすぐに支度を始め、昨日の夕方に京都(こちら)に着いた訳ですね。昨日はもう遅かった為、捜索は諦めホテルに宿泊し、今朝、先生はこちらに来て運転手の方々と会い、私は鬼龍叶さんのマンションに向かった所で倉井幸太さん、貴方に出会ったと」


 そう言って幸太の方を向き〝次は貴方の番です〟と言わんばかりに手の平を向け志穂は満面の笑みを浮かべていた。


「あ、はい。俺は叶さんからまた連絡すると言われてたんですが、全然連絡が無くて、毎日何かしらの連絡は取ってたからなんか不安になって、それに妙な胸騒ぎもして、いても立ってもいられなくなって昨日新幹線に飛び乗ってこっちまで来ました。俺も昨日の夕方に叶さんのマンションに行ったんですが留守で、仕方なく近くの漫画喫茶に泊まってました。今日、廃病院に向かおうと思ってたんですけど、その前にもう一度叶さんのマンションを訪れたら陸奥方さんに出会ったんです」


 幸太の話が終わると嵯峨良も志穂も無言のまま何度か頷き、互いに視線を合わせ何やらアイコンタクトを取っているように思えた。

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