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幸太

――

 一方、遠く離れた地で叶からの連絡を待っていた幸太は落ち着かない時を過ごしていた。


「叶さん、まだ連絡ないな……仕事なんだろうけど……駄目だ、不安だ」


 部屋で一人、幸太は頭を抱えながら悶えていた。

 既に叶が廃病院に向かってから丸一日が経過しており、いまだに帰宅の連絡も何も無かったのだ。


 廃病院の調査ってそんな一日中かかるものなのか?やっぱり何かあったんじゃ?――。


 一人不安に苛まれ、いても立ってもいられなくなった幸太はいくつかの着替えをリュックに詰めると慌てて自宅を飛び出して行った。


 幸太は自転車に跨ると駅まで必死にペダルをこいで行く。駅に着くと丁度入ってきた電車に飛び乗った。


 別に勘違いならそれでいい。叶さんに『君は心配し過ぎなんだって』って呆れられてもいい。もし叶さんに何も無かったとしても叶さんに会いたいんだから別にいいだろ――。


 電車に揺られながら幸太が一人考えていた。


 やがて電車は新幹線も停車するターミナル駅に到着すると、幸太は電車を降り時刻表で関西方面への新幹線を調べ始めた。


 本当に関西まで押しかけてもいいんだろうか?叶さん迷惑かな?でも――。


 ここまで勢いのまま来た幸太が時刻表を確認しつつ、少し戸惑う。確かに連絡が途絶えたのは一日だけだった。仕事に疲れて連絡出来ずに寝てしまっただけかもしれない。だが幸太は妙な胸騒ぎがして仕方なかったのだ。


 いや、悩んでる時間はない、行こう――。


 意を決した幸太は新幹線の切符を買い、新幹線に乗り込み叶がいる関西へと向かった。

 結局三時間程かけて京都に辿り着いた幸太はスマホをもう一度確認してみる。新幹線の中でも何度も確認していたが、やはり叶からの連絡は何も来ていなかった。


 少しため息をつき、叶から聞いていた住所を頼りに私鉄を乗り継ぎながら京都にある叶の自宅を目指す。


 なんか俺、ストーカーみたいだな――。


 そんな自虐的な事を考えながら幸太は一人思いにふけっていた。

 やがて叶の自宅の最寄り駅に着くと、幸太はスマホのナビを頼りに歩いて行く。そうして叶の自宅があるワンルームマンションに辿り着く頃には既に日は傾き夕方になっていた。


 幸太はエントランスにあるインターホンで叶の部屋番号を入力し呼び出しを押すが何も応答は無かった。

 幸太は続いてスマホで叶に電話をかけてみるが電源が入っておらず繋がる事もなく、途方に暮れる。


 その間、マンションの住民と思われる人々が行き交いエントランスで佇む幸太を訝しんだ目で見つめていた。


 幸太は俯き、マンションを後にすると足早にその場を立ち去る。


 どうしよう、何も考えずにここまで来たけどどうすればいい?ひとまず落ち着ける場所を探すか――。


 そう思いスマホで調べると近くに漫画喫茶がある事が分かり、幸太はそこで落ち着く事にした。

漫画喫茶で個室を取った幸太は早速パソコンで廃病院について調べ始める。


「場所は、山中にあるから電車は使えないか。車で行くならここから約一時間か……さすがに歩きはきついな。タクシーなんか使える訳ないし、行くならバスか……」


 一人呟きながら財布の中を確認するとため息をつく。学生の身でありバイト先も失った幸太からしてみればここまでの出費はかなりの痛手だった。


「はぁ正直きついな……でも仕方ない、明日向かってみるか。ひとまず今日はここで寝させてもらうか」


 幸太はそのまま横になると、遠出の疲れもあったのかすぐに眠りについた。


 翌朝、漫画喫茶で目覚めた幸太はまだ寝惚けた眼を擦りながら凝り固まった身体を伸ばす。


「痛たた。ちゃんとベッドで寝てないからあちこち身体が痛いな。まぁあまり贅沢も言えないけど」


 ぶつぶつと独り言を呟きながら出発の準備を整えていく。

 やがて準備を整えた幸太は漫画喫茶を後にすると廃病院ではなく、ひとまず叶のマンションを目指した。


 叶のマンションに着いた幸太は再びインターホンに叶の部屋番号を入力し、呼び出しボタンを押す。

 だが暫く経ってもやはり応答はなかった。


 やっぱり叶さんまだ帰ってないのか――。


 幸太はスマホを取り出し確認するが、やはり叶に送ったメッセージも既読にすらなっていなかった。


 幸太がインターホンの前で佇んでいると、後ろから視線を感じふと振り返る。そこにはスラリと背が高い女性が立ってこちらを覗き込んでいるようだった。


「あっ、すいません」


 慌てて謝り、顔を伏せるようにして頭を下げると、そそくさと女性の横をすり抜けて行く。

 だが幸太が女性の横を丁度通り過ぎた時、女性が不意に声を掛けてきた。


「……すいませんが、ひょっとして倉井幸太さん?」


 突然自分の名前を呼ばれ幸太が驚いて振り返ると、女性は含みのある笑みを浮かべて幸太の事を見つめていた。

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