廃病院⑯
叶が手にしたハンディカムカメラに全員の視線が集まる。
「これって井戸の底にあったのかよ?」
義人が当然の疑問を叶にぶつけると叶はゆっくりと頷いた。
「ええ下にありました。残念ながらバッテリーが切れている為、中身は確認出来てませんがね。それとカメラと一緒にこれの持ち主も発見しました」
叶の言葉に全員が戸惑い、困惑の表情を見せる。
「えっ、どういう事?」
「持ち主がいたって……まさか?」
「はい、白骨化した遺体も横たわってました」
冷静に伝える叶とは対照的に、全員顔を強ばらせて言葉を失う。そんな全員の顔を見渡し、叶が更に続ける。
「僅かに衣服と思われる物も残っていて、時間が経っている為はっきりとは分かりませんがそれは黄色いパーカーのような物でした。黄色いパーカーを着た人物、皆さん覚えてますよね?」
叶の問い掛けに奏音がすぐに反応して声を上げた。
「宇津崎紗奈!」
「はい、そうです。状況的に推測すると、心霊現象が多発する廃病院に宇津崎紗奈さんは一人で訪れたんではないでしょうか?そして探索する内に誤って井戸に転落してしまった。近くに古い携帯電話も落ちていたので転落して即死に近かったんだと思います。だって意識があったら助けを呼んだだろうし、何よりあの高さですからね」
「じゃあ動画配信者が行方不明になったって噂は……」
「ええ宇津崎紗奈さんの事かもしれませんね。さぁ皆さん井戸に向かって手を合わせませんか?」
叶の提案に反対する者などいるはずもなく、全員で静かに手を合わせた。
その後暫く、全員でもう一度中庭を探索するが何も見つからず倉本と興梠が待つ渡り廊下へと戻る事になった。
「何か騒がしかったように思いましたが大丈夫でしたか?」
倉本が声を掛けると義人が笑みを浮かべて頷き、倉本の肩を軽く叩く。
「ああ大丈夫だ。ひとまず出口を目指して行くぞ」
義人達の表情を見て、倉本は力強く頷くと、横で蹲る興梠を引き起こした。
興梠は意識が朦朧とし、一人では歩くのもままならない様子だった為、倉本は仕方なく興梠を背負うと一行の後をついて歩いて行く。
やがて一行は廊下を抜けロビーへと辿り着いた。ロビーの先にある出口からは陽の光も射している。
「やった出られる」
奏音が声を弾ませると、自然と全員の足取りも軽くなっていた。
一行が出口から廃病院の外に出ると何故か昼間のような日差しが射しており、喜びもつかの間、全員が困惑の色を浮かべていた。
「えっ、どういう事?さっきまで暗かったのに……」
奏音が戸惑いながら呟くが、全員が奏音と同じ疑問を抱えていた。




