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廃病院⑮

「秋義さん、この井戸、何か気になりましたか?」


 叶が不意に問い掛けると、秋義は少し困ったように眉尻を下げる。


「いや、気になったっていうか、ほら、ホラー映画とかでも井戸って定番だろ?だからなんていうか……」


 秋義が頭を掻きながら言葉に窮していると叶も眉尻を下げて笑みを浮かべる。


「すいません、少し意地悪な質問になりましたね。実は私もこの井戸に何か感じます。枯れ井戸になっているようなのでロープか何かあれば下に降りてみようかと思うんですがどうでしょう?」


 叶の突拍子もない提案に全員驚き否定的な声を上げる者もいたが、どうしても引っかかる事があるという叶に押し切られ、ひとまず全員でロープを探す事になった。


 その後全員で探索した結果、解体作業が途中で放置されていた箇所の近くにあった道具箱から比較的丈夫なロープが見つかった。


「中々おあつらえ向きの物が見つかりましたね」


 再び井戸の前に集まり、叶が得意気な笑みを浮かべてそう言うと、秋義は困惑の表情を浮かべる。


「あんた本気で行く気か?井戸の底がどうなってるかわからないんだぞ」


「ええ、わからないから確かめに行くんじゃないですか」


 さも当たり前のように言ってのける叶を前に、秋義達も思わずたじろいだが、すぐに言葉を返す。


「いや、そうかもしれないけど、女のあんたにそんな危険な事させる訳にもいかない、じゃあ俺が行こう」


 そう言って前に出た秋義を叶が冷笑を浮かべて見つめる。


「そう言って頂けるのは有り難いですね。ですがクライアントにそんな事をさせる訳にはいきません。それに上ではロープを持って支える人がいりますし、終われば引き上げてもらわなければいけません。上には男手が多い方がいいですし、物理的に考えて降りるのは体重が軽い私の方が適任かと」


 そう言って得意気な笑みを浮かべる叶に対して反論出来る者は誰もいなかった。


 結局、叶の提案通り事は進み、叶がロープを両脇の下に通すと胸の前できつく結んだ。


「これで多分大丈夫でしょう。あとはゆっくりと降ろして下さい。くれぐれも途中で、重たい、とか言って離さないで下さいね、色々と傷付くんで」


 そう言って叶が悪戯っぽく笑いかけるが、全員が苦笑いを浮かべていた。

 その後叶が井戸の縁に立つとゆっくりと体を井戸の中に入れる。義人や秋義が先頭に立ち、手にしたロープをゆっくりと送っていくと、叶の体は徐々に暗い井戸の中へと吸い込まれて行った。


 ゆっくりと近付いて来る井戸の底を懐中電灯で照らしながら叶は少しずつ暗い井戸に飲み込まれていく。


 ふふ、こんな事してるなんて幸太君が知ったら流石に怒るかな?少なくともこの場に君がいたら私にこんな事はさせないだろな――。


 叶がそんな事を考えていた時、懐中電灯の光がようやく井戸の底を鮮明に照らしだした。

 その瞬間、叶は思わず息を飲む。


 地上ではロープを送っていた義人達の手に抵抗がなくなりロープが緩んだ。

 それは叶が井戸の底に到達した事を意味していた。


 義人達はすぐに井戸を覗き込み声を掛ける。


「おーい!下まで着いたのか!?」


 義人達の呼び掛けに対して、少し間を空けて叶が返す。


「はい、辿り着きました!私が合図するまで待ってて下さい!」


 そう言われ地上にいた者達は仕方なく叶の合図を待つ事になった。

 そうして十分程が経った頃、ようやく井戸の中から叶の声が聞こえてきた。


「すいませーん!引き上げて下さーい!」


 慌てて井戸の中を覗くと、下では懐中電灯の明かりがぐるぐると回っていた。

 義人達は急いでロープを手繰り寄せていく。


「痛たたた!ちょっと、ちょっと!」


 勢いよくロープを引きすぎたのか、叶が叫び声を上げながら井戸の中を上がってきた。

 ようやく手の届く所まで叶が上がって来ると、奏音や朱里が手を差し伸べ、叶を地上へと引っ張り上げる。


「痛たた……ロープ引く時はもうちょっと丁寧に引いて下さい。ロープが体に食い込んで痛かったんですけど」


 叶が軽く文句を言うと、義人や秋義が苦笑いを浮かべて頭を下げていた。

 そんな中、奏音が叶の右手にカメラのような物が握られている事に気付く。


「ねぇ、それって……」


 不思議そうに問い掛ける奏音を見つめて、叶が静かに頷く。


「ええ、収穫はありました」


 そう言って手にしたハンディカムカメラを前に出す。

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