廃病院⑭
「……なるほど分かりました。ひとまず慰霊碑を探しましょう」
叶が全員の方を見ながらそう言うと、奏音が静かに問い掛ける。
「慰霊碑見つけたらどうしたらいいの?」
「とりあえず全員で手を合わせましょう。今はそれぐらいしか出来ませんから。義人さん、秋義さん、慰霊碑の場所はご存知ですか?」
叶が振り返り問い掛けるが、二人は無言のまま首を横に振っていた。
そんな二人を見て、叶は小さくため息を漏らすと少し思慮を巡らせる。
しかし慰霊碑っていったら普通は敷地の外に設置しないかな?あまり建物内に設置するイメージ無いんだけどな。じゃあ建物内に閉じ込められてる私達は一体どうしたらいいんだか……。
暫く一人考え込んでいた叶だったが、ふとある事に気付く。
「皆さんとりあえずついてきて下さい」
叶はそう言うとすぐに歩き出し、全員慌ててその後に続いて行く。叶は廊下から横に伸びる通路を曲がるとすぐに突き当たり、そこには中庭に通じる扉があった。
叶は無言のまま扉を開けると、そこには中庭の中を突っ切るように渡り廊下が隣の棟まで伸びていた。
全員が渡り廊下に出ると生暖かい風が吹き抜ける。
「皆さん、この中庭で慰霊碑らしき物を探したいと思います。ただ興梠さんを一人にするとまたややこしくなりそうなので倉本さん、ここで興梠さんと共に待っていてくれますか?」
「了解した」
叶が興梠の世話を倉本に頼むと、倉本は快諾し力強く頷いていた。
叶が満面の笑みを浮かべて頷くと、二人を渡り廊下に残し、他の者達で雑草が鬱蒼と生い茂る中庭へと入って行った。
中庭はテニスコート二面程の広さがあり、長年放置されていた雑草は叶達の胸の高さ程まで伸びていた。そんな中、全員が草をかき分けながらゆっくりと進んで行く。
「……はぁ、最悪……」
奏音も愚痴をこぼしながらも懸命に草をかき分けながら進んでいた。
そんな時、少し離れた場所を進んでいた義人が声を上げる。
「おい!ちょっとこれ見てくれ!」
「見つけましたか?」
慌てて叶達が駆け寄ると、義人達は眉根を寄せて少し困ったような顔をしながら朽ちた古い小さな祠のような物を指さしていた。
「慰霊碑じゃないけどこれはどうなんだ?」
義人が問い掛けると、叶は祠に顔を近づけ観察する。
「相当古い物だと思いますが、恐らく何かを祀っていたのは間違いないですね。誰かが壊したのか、人の手が行か届かなくなって自然と朽ちてしまったのかはわかりませんが、ほおっておく訳にもいきませんね」
そう言うと叶は祠に生えた苔等を取り除くと、持っていたハンカチやポケットティッシュで丁寧に祠を拭き始めた。
そんな叶を見て、他の者達も自然と祠の周りの雑草等をむしり始める。
暫くすると祠は朽ちてはいるものの苔や泥等の汚れは取り除かれ、周辺は雑草がなくなりすっきりと祠が確認出来る程にはなった。
「よし、幾分かは見栄えはマシにはなったかな」
叶は満足気にそう言うと手を合わせ始める。特に指示された訳ではなかったが全員が叶に習うように手を合わせる。
暫くの静寂の後、叶が「ふぅ」と一息ついた。
「これで全て上手くいく訳ではありませんが、出来る手は尽くしていきたいと思います。この壊れた祠がいつの間にか慰霊碑として伝わったのか、別に慰霊碑があるのかはわかりませんがもう少し探索を続けたいと思います」
叶の言葉を聞き、全員が再び中庭を探索し始める。
すると暫くして次は秋義が声を上げて全員を呼ぶ。
「おい、ちょっと来てくれ!」
再び全員が集まるとそこには古い井戸があった。
直径二メートル程の井戸を叶が懐中電灯で照らし覗き込むが、懐中電灯の光が弱く井戸の底ははっきりとはわからなかった。
「よく見えないわね」
叶がぽつりと呟くと秋義が割って入り覗き込んできた。
「ちょっと石落としてみるか」
そう言って秋義が小石を落とすと、『コンッ』という音が反響した。
「水は枯れてるみたいだな」
秋義が呟く中、叶は井戸の底をじっと見つめていた。




