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廃病院⑩

 誰もが言葉を失っていた中、静寂を打ち破り叶が口を開いた。


「なんとなくわかりました。義人さんスマホはとりあえずしまって下さい。そこで質問なんですが、宇津崎紗奈さん、彼女は何者なんですか?誰か教えて下さい」


 叶の質問に全員が顔を見合わせ、首を傾げる。単純な質問の筈なのに誰もが答えに困った様子が伺える。そんな全員の反応を見て叶は更に続けた。


「では確認しますね。私は皆さんが集合した場所までは迎えの車で来させてもらいました。運転手さんを除けばその車に乗っていたのは私一人です。私が到着すると興梠さんも自身を連れて来てくれたであろう運転手の方とおられました。この時点では紗奈さんも皆さんもいらっしゃらなかったです。暫くすると皆さんがミニバンで来られましたよね?この時、紗奈さんは一緒に来られましたか?」


 叶の質問に全員が首を振る。


「いや、あの車には俺と朱里、それに華月。そこに秋義と奏音ちゃん、助手席に倉本が乗っていただけであいつは乗ってないぞ」


 義人が説明すると更に倉本も続いた。


「ええ、それにあの車は七人乗りです。後部座席に五人乗られて、助手席に自分が乗ってましたからあとは運転手を入れたらそれ以上は乗せれません」


 義人に続き倉本も否定すると、叶は小さくため息を漏らした。


「ふぅ、なるほど。しかしこの廃病院に着いた時点では彼女はいた。では始めの質問に戻ります、彼女はそもそも何者ですか?義人さんと秋義さんは私のクライアント、朱里さんと奏音さんはそれぞれのパートナー、華月さんは朱里さんのご友人、倉本さんは付き人のようなボディガード、因みに興梠さんは私と同じような霊能者という立場だと思いますが、彼女だけ、宇津崎紗奈さんだけは間柄がはっきりしないんですよ。彼女が誰なのか、教えてくれる方はいませんか?」


 結局叶の問い掛けに答えられる者はおらず、全員が困惑の表情を浮かべたまま口ごもり顔を見合わせていた。


「なんとなくわかりましたね。彼女は我々とここに来たんじゃない、はじめからここにいた。そして我々はそれに気付かず一緒に来たと思い込んでいた」


「いや待ってそんな事って……」


 奏音が困惑に満ちた表情で割って入ったが、叶は不敵な笑みを浮かべる。


「そんな事ってありえない、そう思いますか?確かに我々の常識で考えたらありえないですよね。しかし実際は今そうなってたじゃないですか。私達は誰一人、彼女の存在を不思議に思わなかった。霊のする事を私達の常識で考えてたら足元をすくわれます。だって霊の存在自体、常識で考えたらありえないでしょ?」


「じゃあ、あいつは霊で、俺達は気付かずにずっと幽霊と一緒にいたって事なのか?」


 義人が少し戸惑い、狼狽えながら問い掛けるが、叶は静かに頷き苦笑いを浮かべた。


「ええ、残念ながらそうなります。私も迂闊でした。この廃病院に入ってから複数の霊の気配に惑わされて彼女が入り込んだ事にまったく気付けませんでした。ただよく考えたら彼女だけが高校生でしたしおかしいんですよね。さぁひとまずここを出るのが先決です、行きましょう」


 そう言って再び叶が振り返り歩き出すと、すぐに後ろから倉本が声を上げる。


「あ、あの、言いにくいんだが……興梠氏がいないんだ」


 倉本の言葉に驚き振り返ると、確かに興梠の姿は何処にも見当たらなかった。


「すいませんが倉本さん、興梠さんはどの段階までいたか分かりますか?」


「紗奈って子がいないってなった時までは確かに横にいたんだ。だが今歩き出そうとしたらもう何処にも……」


 倉本は両手を広げて困惑に満ちた表情を浮かべていた。


 皆がスマホの写真に気を取られてる間に消えた?ひょっとしたら――。


 叶は一瞬俯き考えたが、すぐに顔を上げ眉を八の字にして頭を振った。


「あまり気は進まないんですが、全員でさっきの手術室に戻ります。本当は手分けして探した方が早いかもしれませんが、今離れ離れになるのは得策だとは思えないので」


 そう言って叶が歩き出すと全員が無言のままそれに従いついて行く。

 やがて再び手術室の前に立つと叶は大きく息を一つ吐き、中へと入って行く。


 そして一行が中へと入ると、そこにはやはりと言うべきか、衝撃の光景が広がっていた。


「ひっ」


 奏音が思わず引き攣ったような声を上げる。

 そこは誰もいない真っ暗な部屋の中で、一人で手術台の上で仰向けで横になる興梠の姿があった。

 全員が部屋に入って来てもピクリとも動かず、目は見開き頭上にある一点をただじっと見つめていた。真っ暗な手術室の中で白装束の様な興梠の衣装が際立ち、より一層不気味さに拍車をかける。


 その異様な光景に全員が言葉を失い佇んでいた。

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