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廃病院⑥

 一行は階段下まで来ると、階段を上り再び一階へと戻ってきた。


「どうしますか?一階を探索しますか?それとも上の階に行きますか?」


 叶が義人の方を向き確認すると義人は笑みを浮かべて上を指さした。


「上に行こうぜ」


「分かりました」


 叶が頷き階段を上り始めると全員が後に続いた。叶が確認するかの様に振り返ると全員がしっかりと後に続いており、興梠が最後方から全員を見上げていた。

 叶は自身の直後を歩く奏音に静かに問い掛ける。


「あの、會田さん。一つお聞きしたいのですが、あの興梠さんて有名な方なんですか?」


「えっ?貴女知らないの?って言うか貴女達知り合いじゃないんだ?」


 質問に対して奏音が目を丸くさせて逆に問い掛けてくると、叶は軽く会釈して微笑を浮かべる。


「ええ、今日皆さんとお会いするほんの少し前に初めてお会いした方です」


「そうなんだ。私もあまり詳しくは知らないけど、なんかテレビとかにも出てる有名な霊能者みたいよ。私も名前ぐらいしか知らないけどね」


 奏音が後方の興梠をちらりと見ながらそう言うと、横にいた紗奈も笑みを浮かべて会話に入ってくる。


「いんちきでしょきっと。それより鬼龍さんも知らない人だったんですね。私もてっきり知り合いだと思ってました」


 笑みを浮かべながら毒を吐く紗奈を見て、叶が口角を上げてにやりと笑う。


「ふふふ、あんな胡散臭い人、知り合いじゃないって。まぁ霊能者なんて皆胡散臭い連中ばかりだけどね」


「そんな事言ったら貴女もそうなるわよ」


 奏音が口元に手を当てながらそう言って笑うと、叶も笑みを浮かべる。


「ええ勿論私も含めての話ですよ」


 叶が自虐的に笑い三人でくすくすと笑い合いながら二階へと辿り着いた時、叶は一瞬違和感を覚えた。


 何これ?……また?――。


 一瞬感じた違和感を誰にも悟られぬよう、ゆっくりと辺りを見渡すが今は特に何も感じる事はなかった。だがほんの僅かに感じた違和感はこういった怪奇現象が起こるとされている場所特有の物であり、これまで何度も霊と触れ合ってきた叶には僅かながらも確実に感じられた物だった。

 叶が人知れず戸惑う中、暫くして全員が揃うと、叶は平静を装い義人に問い掛ける。


「どうします?もう一つ上の階もありますが?」


「そうだな、とりあえず上から行こうぜ」


 叶は小さく頷くと、再び階段を上って行く。

 そうして三階に着いた叶は確認するように周りを見渡すが今度は特段何かを感じる事はなかった。


 叶は軽く頭を振ると何もない空中を見上げる。


 駄目ね、廃病院(ここ)に入ってから霊の気配が多過ぎて上手く感知も出来ない――。


 叶が一人思慮を巡らせていると、突然義人から呼びかけられた。


「鬼龍さん、揃ってるぜ。早く行こうか」


 現実に引き戻された叶が慌てて周りを見渡すと、全員の視線が自身に注がれてるのに気付いた。


「では行きましょうか」


 何食わぬ顔で叶が歩き出すと全員がその後に続く。暫く薄暗い廊下を歩いた所で、これまでとは違った一際大きな扉が目についた叶は思わずそこで足を止める。


「この部屋……何?」


 思わず呟き扉の上の方へ目をやると、薄く古ぼけた文字で理事長室と書いたプレートが掛かっていた。


「理事長室ね……入ってみますか?」


 一応確認するように叶が義人の方を向くと義人は、当然と言わんばかりに笑みを浮かべて頷いていた。

 だがその瞬間、最後方にいた興梠の後ろを何かが一瞬横切ったように叶には見えた。


「えっ、何?」


 思わず叶が困惑するように呟くと、全員が叶の視線を追って振り向く。

 全員の視線が自身に向けられたものと勘違いした興梠が戸惑いながら笑みを浮かべていた。


「な、なんだ?儂に何か?」


「あっ、いえ、丁度陽が差し込んで影が出来てただけです。気にしないで下さい」


 叶が誤魔化す様にそう言って笑みを浮かべて軽く会釈すると全員が安堵の表情を浮かべた。


「貴女が変な顔したら皆不安になるんだから勘弁してよね」


 朱里がやや不満気に愚痴をこぼすと、叶は目を伏せるようにして頭を下げていた。

 叶は再び全員を見渡し、気を取り直して扉のノブに手を掛けるとゆっくり扉を開いた。

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