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廃病院⑤

「なんだよ、じゃあここで待ってるか?」


 秋義が呆れた様に冷たく言うと奏音は目を釣り上げ語気を強めた。


「何よそれ!?少しはいたわってくれてもいいんじゃないの!?だいたい私こんな所に来るなんて聞いてないんだから!」


 静かな廊下に奏音の声が激しく反響し響き渡る。

ただでさえ気乗りしない仕事に、一連のやり取りが上乗せされ、叶は気が滅入りそうな想いで頭を抱えた。


 奏音にがなり立てられた秋義は(かぶり)を振りながら再び呆れたようにため息をついて背を向ける。


「倉本、お前奏音と一緒にここにいてやってくれ。さぁ俺達は先に進もうぜ」


 そう言って一人先を歩き出した秋義を叶が慌てて追いかける。


「あ、待って下さい、勝手に行かないで」


「じゃあ早く先を歩いてくれよ鬼龍さん」


 叶の言葉で振り返った秋義は眉根を寄せて不機嫌そうにしており、叶は仕方なく急いで先頭に立つ。

 叶が振り返ると全員ゆっくりと後をついて歩いて来ていたが、奏音は倉本と共にそこで立ち止まり恨めしそうにこちらを見つめていた。


 叶が振り返りながら心配そうに奏音の事を見つめていると、それに気付いた秋義が静かに語り掛ける。


「鬼龍さん、あいつ我儘だからあまり気にしなくていいぜ」


 叶は一瞬秋義の顔を見つめたがすぐに前を向き歩みを進めて行く。


「……確かにそうなのかも知れませんが、もう少し優しく……いや、まぁ違うか。でも今はチームとして動いているのであまり波風は立てないようにお願いします」


 叶は静かにそう言ったが、本当は〝もっと彼女の事を考えてあげてもいいんじゃないですか?〟ぐらいは言ってやりたかった。

 だが今は仕事中であり、クライアント相手にそんな踏み込んだ事を言うのは(はばか)られる為、叶は言葉を飲み込んだ。


 静寂の中、一行の足音だけが〝コツコツ〟と暗い廊下に反響し響き渡る。

 しかし暫く歩いた所で先頭を行く叶の足が止まった。


「崩れてますね……」


 そう言って叶が懐中電灯で先を照らすと数メートル先には工事現場でよく見かける様な赤いカラーコーンが行く手を阻むかの様に設置され、天井が崩落していた。


「仕方ない戻るか」


 義人が力なく呟くと、一行は振り返り、再び叶を先頭に戻って行く。暫く歩いて戻ると、階段下には奏音と倉本が二人並んで立っていた。


「早いじゃん、何かあったの?」


 腕組みをしたまま、眉根を寄せて不機嫌そうに尋ねる奏音に、叶はあえて柔和な笑みを見せる。


「いえ、少し行ったら崩れてまして進めませんでした。これから反対側に行きますが、會田さんも一緒に行きませんか?こんな所にいたって退屈でしょう?」


 叶の問い掛けに奏音は特に反応する事はなかったが、無言のまま叶の後をついて歩いて行く。

 再び全員揃って暗い廊下を歩いて途中にある部屋等を探索していくが、特に変わった事もないまま突き当たりの部屋まで辿り着いた。


「特に変わった物もないか……」


 叶が部屋を見渡しながら呟くが、後方にいた興梠が険しい表情をして突然前に出てくる。


「いや待て、分からんか?……いるぞ」


 興梠は部屋を見渡した後、そう言って部屋の一角を指さした。

 全員の視線が興梠の指さした先に集中するが、叶にはそこから何も感じらず首を傾げる。


 特に何も感じないんだけどな。この人よほど凄い人か、それとも――。


「……すいません、私には視えませんね」


「そうか、まぁあの類は仕方あるまい」


 そう言うと興梠は得意気な表情を浮かべて前に出る。自らが指し示した方向を向き、目を閉じ両手を合わせ何やらぶつぶつと唱え始めた。静かだった部屋に興梠のくぐもった声が淡々と響き渡る。


「きえぇぇぇぇぇい!」


 突然興梠の奇声が響き渡った。

 全員が驚き興梠を見つめると、興梠は満足気な笑みを浮かべて小さく何度も頷いていた。


「さぁもう大丈夫だ、先を急ごうか」


 そう言って興梠が部屋を後にすると全員続いて行く。

 そんな中、宇津崎紗奈が一人部屋の一角を見つめ佇んでいた。


「どうしたの?」


 叶が声を掛けると紗奈は振り向き僅かに口角を上げて頭を振る。


「いえ、何もないです、行きましょうか」


そう言って部屋を出て行く紗奈を見つめ、叶も後に続いて行く。

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