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夏目君が。

「フローライト」第十二話。

仕事は順調・・・だとは言えなかった。最初はプログラミングではなく電話番をさせられた。明希は相手の名前を聞き忘れたり、聞いても聞き間違ってたりでかなり怒られた。やっとパソコンに向かわせてもらえたと思うと、いきなりこれやっておいてと紙を渡されてまったくチンプンカンプンで、先輩や上司の人に聞くのも聞きづらい。


(あー・・・この先大丈夫かな)と思いっきり不安だ。


 


アトリエに戻ると利成はまだ帰っていなかった。というか、出かけたのかもしれない。時計を見ると、夜の八時だった。


(ご飯、どうするのかな・・・)


ラインをしてみようとスマホを取り出した。利成にラインを打っていたら翔太からラインが来た。


<明希、久しぶり。元気?>


確かに久しぶりだった。前にラインが来たのが三月頃・・・今はもう六月が終わる。


<うん、久しぶり。元気だよ。翔太は?>


<元気だよ。俺専門やめたよ>


<え?何で?>


<やっぱ合ってなかったよ>


<じゃあ、今どうしてるの?>


<バイト>


<バイトしてるんだ>


<うん、後は作曲もやってる>


<え、すごいね>


<全然すごくはないよ>


<バンドはやってるの?>


<うん、まあね。明希、今話せない?>


(え?)と思う。どうしよう・・・。でもま、いいかと思って<話せるよ>と返信したらすぐに電話がきた。


「ひさしぶり!」と翔太の明るい声が響く。


「うん、元気だった?」


「元気だよ。明希は今どうしてるの?就職した?」


「うん、何とか・・・」


「そっか、良かったな」


「うん、ありがと」


「天城とはまだつきあってんの?」


「うん・・・実は今一緒に暮らしてるんだ」


「えっ?マジに?」


「ん・・・」


「そっか・・・」


そう言って急に翔太が黙った。


「翔太?」


「・・・ん?」


「どうかした?」


「いや、俺今さ、後悔先に立たずって学んだわ」


「どういう意味?」


「・・・あの時、お前のこと離さなきゃ良かったと思って・・・」


「えっ?・・・」


「ほんとにさ・・・」


「そんなことないよ。翔太だって今彼女いるんでしょ?」


「いたけど・・・別れた」


「そうなの?何で?」


「何かうまくいかなくて・・・明希、また会ってくれない?」


「え・・・だって・・・」


「またお茶するだけでいいからさ」


「んー・・・でも・・・」


「無理?」


「無理じゃないけど・・・」


「じゃあ、今度の休みとかどう?明希は土日休み?」


「休みは・・・利成も休みかも・・・」


「・・・そっか・・・じゃあ、平日?」


「んー・・・仕事の帰りとかなら」


「じゃあ、明日は?」


「明日?んー・・・いいけど・・・」


「じゃあ、前のカフェで。仕事終わったら連絡して」


「わかった・・・」


 


通話を切ってから何で断らなかったんだろうと後悔した。


(私ってバカ・・・何ではっきり断れないんだろう・・・)


どうしようと悶絶してると玄関のドアが開く音がして、ハッとして時計を見たらもう夜の九時を過ぎていた。


「あ、おかえりなさい」と言うと、「ただいま。今帰ったの?」と聞かれた。そうだ、仕事用のスーツのまま着替えもしてなかった。


「ん、まあ・・・」と答えた。


「ご飯は?」


「まだ・・・」


「そう。じゃあ、一緒に食べに行こう」と利成が言った。


「うん・・・どこに?」


「何食べたい?」


「んー・・・利成は?」


「俺は何でもいいよ」


「えー・・・私も何でもいいよ」と言ったら利成が笑った。


「じゃあ、今日はもう遅いから近所の居酒屋でも行く?ちょっと歩くけど」


「うん」


 


居酒屋でお酒を少しと食事を済ませてアトリエに戻ると、利成が「明希、、ちょっと話がある」と言われた。


「何?」と部屋に立ったままでいたら、「座って」と言われたのでソファに座った。


「あのね、バンドなんだけど・・・」


「うん、利成のバンド?」


「うん、そう。デビューする話がきてて・・・」


「えっ?デビューって?」


「メジャーじゃないけど、前から誘われてたんだ」


「そうなの?すごいね」


「だけど、それとは別にソロでやらないかって言われてて・・・」


「えっ?どういうこと?」


「バンドとは別に俺だけってこと」


「そうなの?」


「それでちょっと悩んでてね・・・」


「そうなんだ・・・利成はどっちがいいの?」


「バンドはもうみんなやる気でね・・・だけど仲間の一人が抜けそうなんだ」


「そうなんだ・・・」


「それでその仲間の一人が・・・明希の元カレと仲が良くて」


「えっ?!」と思いっきり驚いた。


「その元カレ、ギターできるから代わりにどうかって。まだ本人には言ってないらしいけど」


「そう・・・」


さっきまで翔太と話していたとは言えなかった。


「バンド、やめようか考えてるんだけど・・・」


「そう・・・」


「明希もやだよね?元カレがいるなんて」


「ん・・・でも、利成がやりたいならいいよ。私は関わるわけじゃないし」


「そう・・・でももう一つ問題。バンド本格的にやると今以上に時間がなくなって、明希と一緒にいる時間が減る」


「あー・・・でも、利成がやりたいならいいよ。減っても」


「ほんとに?大丈夫?」


「大丈夫・・・」


でもちょっと寂しかった。実は今も利成は大学と音楽活動とユーチューブ、絵画とほとんど家にいないのだ。


(でも大丈夫だよね・・)と自分に言い聞かせる。利成の邪魔はしたくなかった。


 


次の日、仕事が終わってから翔太に連絡した。翔太はもうカフェにいるからと言う。カフェに到着すると翔太が前のようにコーヒーをおごってくれた。


「翔太ってギターできたの?」


付き合っている時には聴いたことがなかった。


「あー・・・まあね」


「でも、私といるときはしてなかったよね?」


「してたよ。でも専門とバイトが忙しくてやるヒマなかったよ」


「そうなんだ」


「でも何で?」


「その・・・バンドのこと聞いて・・・」


「バンドって?天城の?」


「うん・・・」


(そっか・・・翔太はまだ知らないんだ)


「天城はすごいよな。歌に作詞作曲、ギターにピアノ何でもござれで」


「ん・・・」


「それだもの明希も天城の方がいいよな」


翔太がそう言ってコーヒーを一口飲んだ。でも明希は利成が何でもできるから好きなんじゃなかった。もっと幼いころから好きだったのだ。


「気になってること聞いていい?」


「何?」


「怒らないでよ?」


「うん・・・」


「天城とはできたの?」


「・・・・・・」


(前もそんなこと言ってたっけ・・・)


でも・・・と思う。翔太とはそれが原因で別れたのだ。


「できたよ・・・」と答えたら翔太が驚いた顔をした。


「そう・・・治ったんだ・・・」と翔太がうつむいた。


「ごめん・・・もう一個やなこと聞いていい?」


「いいよ」


「どうやって治したの?自然に?」


「ううん・・・利成が色々考えてくれて・・・」


「そう・・・なんだ・・・」


「うん・・・」


「あー・・・やっぱ俺ってバカだよな・・・」


「何で?」


「いや、とにかくバカだ」


 


「また会って欲しい」と言われたけれど、曖昧にうなずいた。それにどうせ利成のバンドに入ったら会うこともあるかもしれない。


そして明希の予想通り、翔太は利成のバンドに入ったのだった・・・。


 

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