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前編


 ツイてなかったね。生まれてこの方何度も言われたセリフ。


 運が悪かったね。そんなのは周りに言われるまでもなく自覚している。


 あたしは昔からツイてない。


 幼少期の頃から今まで、運が良かった事なんて無いんじゃないだろうか?


 あ、だいぶ前に百円拾ったな。


 いやでも、拾うために立ち止まった所為で水溜りの水が撥ねてきたんだっけ、じゃあ運悪いわ。


 あ、この前コンビニのくじで欲しいキャラのキーホルダーを当てたよね。


 ……いや、あの後ひったくりに突き飛ばされてガードレールにしこたま頭打ったっけ。


 しかもキーホルダー側溝に落としたし。


 と、いう風に。あたし――――落宮 陽菜は生まれつき運が悪い。


 巻き込まれ体質というか。不運や災厄がまるで吸い寄せられてるというか。


 特に今日は朝から様子がおかしかった。


 起きてまず階段から落ちた。


 いつもの事だからか、誰も様子を見にきやしない。薄情者。


 マーガリンも牛乳も、妹が使い切ってあたしの分は無かった。しょうがないから水と何も塗っていない食パンを朝ご飯にした。味気なかった。


 おろしたてのローファーは、履くなり水溜りで汚した。これはあたしの確認不足かもしれない。


 信号は全部赤に引っかかるし、目の前に鉢植えが落ちてきたり、カラスが頭上で大合唱していたり。


 なんかいつもに比べて変だな? と思ってた時だった。


 前方からけたたましい音が鳴り響く。


 車の衝突事故だ。脳がそう認識した時にはもう遅かった。


「えっ」


 事故の衝撃で外れた一輪のタイヤが、あたしに飛んできていた。


 だけど今まで数々の不運に見舞われてきたんだ、避けるのは容易い。


 持ち前の反射神経でタイヤを躱す。


 早鐘を打つ心臓を抑え、転がっていったタイヤを見るべく振り返る。


 それがいけなかった。後ろから声がする。


「危ない!!」


 その声には反応できなかった。


 背中と頭に衝撃。


 倒れながら、衝撃を与えてきた正体を確かめる。


 タイヤだった。二輪目。


「二輪目は……聞いてない……」


 あたしの意識はそこで途切れた。


 ………………。


 …………。



 なんか声がする。


 真っ白な空間で、白い装束を着たお爺さんたちが円を組んで何やら話し合っている。


 声を出そうとしたけど、出ない。


 身体を動かそうとしたけど、動かない。


 そんなあたしをよそに、お爺さんたちは厳しい表情で話し合っていた。



「この少女、随分運が悪いな」

「うむ……どれどれ。幼稚園の頃、積み木を投げ窓ガラスを割った子に、罪を擦り付けられた」


 ……ああ、あったあった。


 何をとち狂ったか、いきなり奇声を上げながら積み木をあちらこちらに投げ始めた男の子。


 何枚かのガラスが割れ、先生が慌ててやってきた。


 そして何故か、投げた張本人はあたしを指差したのだ。


 子供だったあたしは上手く説明することも出来ず、違うと言いながら首を振り続けていたけれど、信じてくれることは無かった。



「これはどうだ。これは……小学生の頃だな、プールの授業の後女生徒の服が全員分隠されていたのを、自分のせいにされた……」

「それは酷いな、ははは」


 笑い事じゃないでしょ。いや、他の人にとっては笑い事か。


 犯人は当時スケベでやんちゃな男子生徒数人の仕業で、幸いにもすぐに見つかったけれど。


 最後に着替えてたってだけで疑われるとは思わなかった。


 しかも見つかるまで散々責めてきたのに、犯人じゃないと分かった後でも謝罪の言葉は無かった。軽く人間不信に陥ったよねあの時は。



「それで、これは中学生の時か。なになに……下校中、受け子に間違われた……?」


 わーお、言葉にしたら超シンプル。


 だけどあれは今まで生きてきて最大の不運といっていい。


 なんせ、あたしは歩いていただけだ。


 歩いていた近くで、何やらヤバい取引があったとかで、たまたま近くを歩いていただけで警察に関係者だと間違われた。


 そのまま連れて行かれ、執拗に背後のグループとか聞かれ続けてたけど。


 そんなの知らなかった。背後のグループってなに? 教室の後ろの席の陽キャグループのこと?


 両親の弁明も聞き入れられることはなかった。


『あの子はアホだけど、そんな事をする子じゃありません!!』


 なんか一言多いけど。


『うちの娘はどんくさいが、道を踏み外すような子ではないのです!! ただどんくさいだけなんです!』


 なんで二度言ったんだろう。


 結局誤解が解けたのは深夜になってからだった。


 今でも頭に残っているのが、警察の人が最後に言った言葉だ。


『疑われる行為は慎むように』


 歩いてただけだよ? 歩くなってこと?


 両親はまたもや詰め寄ったけど、警察の人は聞き入れることは無かった。


 メンツを保つために、あくまでも怪しい行動をしていた女子中学生を補導した。このスタンスでいくらしい。



「……うむ、中々壮絶な不運人生のようだな」

「そうだのう、死因も事故に巻き込まれただけ……」

「幼少の頃からここまで不運なら、大人になったらとてつもない幸運が舞い込んでくるのではないか?」


 お爺さんのうち一人が、巻物みたいなやつを開いて見ていた。


 え、あれあたしの年表?


「……いや、大人になったら彼氏に騙されて借金の保証人にさせられる、と書いてある」


 そんなの聞きたくなかった。


「借金を返すためにギャンブルをそそのかされ、更に借金が膨れ上がる……と」


 あたしそこまでバカじゃないけど!?


「生まれ持った不運……いや、巻き込まれ体質か。流石に不憫よの」

「そうさの。次こそは、幸せな人生を歩んで欲しいものだが」


 次ってなに? もう今回おしまいなの?


「今まで生きてた所とは勝手が違うで戸惑うだろうが……」

「ああ、このまま生きていても不幸になるのが目に見えているのなら、いっそ」


 いっそ? いっそなに? 何かすごく不穏なこと話し合ってない?


「巻き込まれ体質を、幸運加護によって中和して……仮に巻き込まれても大丈夫なように身体も丈夫にしておこう」

「力も振っておくか?」


 ゲームのキャラクリみたいなノリで話すのやめてもらえる?


「服装はどうする? 元の世界の服装は目立つだろう」

「なら、あちらの世界での初期アバターにしておこう」


 アバターって言ってる。完全にキャラクリ感覚じゃん!


「胸は盛っておくか?」


 あ、それは……。


「いや、必要ないだろう」


 誰かがキッパリと言い放った。


 なんで? なんでそれだけもっと話し合わないの!?


「こんなところか……では、そろそろ送るとするか」


 言いながら、円陣を組んでいたお爺さんたちはあたしの方に歩み寄ってきた。


「ぬお!? 目が開いておる!?」

「なぬ!?」

「何やら怒りを感じるのう」


 表情を変えられないし、目線も動かせない。


 口を開くことも出来ない。


 何も伝えることが出来ないけれど、せめて一言だけ言いたい。


「では、息災でな」


 待って。


 お爺さんがあたしの額に手をかざす。


 せめて、胸も盛――――!


 ………………。


 …………。


 ……。


「あいったあっ!?」


 中空に放り出されたかと思うと、途端に落下。


 しこたまおしりを打って、擦りながら周囲を確認。


 森の中。生い茂る草木。


 それ自体は別に珍しいものではない。祖父母の裏山がこんな感じだった。


 それよりも、違和感を感じるのが……服だ。


 ……麻の服? なんかゴワゴワする。


 薄汚れた白っぽい色の、半袖半ズボンの衣服。


 うわ、マジで初期アバターっぽい。


「……ええと」


 周りをキョロキョロ見てみる。


 変なお爺さんたちに、ここに送り出されたのは分かってる。


 でも、こんなところで何をしろと――っ!?


 大事なことを思い出した!


 ハッとなって自分の胸を見てみる。


 生前と違わぬ大きさだった。


 盛ってほしかったのに……っ!!


 その時、後ろの草むらからガサガサと物音がした。


 痛むおしりを堪えながら、振り返る。


 そこには。


 緑色の、モンスターがいた。


 小さな人の姿。


 これは、ゲームで言う所のゴブリンとか言われる存在では……?


 見つめ合うこと数秒。


 ギャギャギャ、だのゲゲゲ、だの奇声を上げながら飛びかかってきた。


「うわっ!?」


 慌てて躱す。


 違う所の草木もガサガサと音を立て始める。


 まさか、仲間を呼んだ!?


 唯一ガサガサと音が鳴っていない方向へと足を向け。


 走った。


 背後からは奇声を上げながら迫るゴブリンっぽいモンスターたち。


 振り返ることも出来ず、ひたすら走る。


 草を分け、枝木を避け。


 質の悪い靴が、踵やつま先を痛めつける。


 だけど止まるわけにはいかない。捕まったら間違いなく殺される。


「……はあっ! はあ……っ!!」


 どれくらい走っただろう。


 背後から聞こえる奇声も、聞き慣れてきた頃だった。


 草むらをかき分けると、何かにぶつかった。


 堅いなにか。


 だけど岩や樹木とは違う、肉質的な硬さだった。


 痛む鼻を抑えて、顔を上げる。


 そこには、人間がいた。


 男性で、何故か半裸。


 その男の人はあたしの両肩に手を添えて。


「野郎ども、ゴブリンだ!!」


 あたしを背後に回して、他にいるであろう仲間に向けて叫んだ。


 手に持った斧や剣で緑色の小さなモンスターを次々に倒していく。


 飛び散る血飛沫が、それを見て感じる吐き気が。


 ここが現実であることを示していた。


 すべて倒し終わった男性たちは、ゴブリンの死体から耳を削ぎ落としていた。


 なんで、とその時は思っていたけれど、後で知った事情によると討伐証明として報奨金が貰えるのだとか。


 あたしはぶつかった男性の元まで歩いて行く。


「あ、あの……ありがとうござ――」


 先程と同じようにあたしの両肩に手を添える。


 ただ違うことと言えば、その両手が万力のように硬く握られていたことくらい。


 痛いんだけど。


 痛みに身を捩っていると、男性はまたも叫んだ。


「女もゲットしたぜ!」


 湧き上がる歓声。


 …………おやおや?


 もしかしてここは、この人たちは。


 ……まさか、山賊とかいう人たちなのでは?


 顔を上げて、表情を見てみる。


 好色そうな下卑た笑みを浮かべていた。


 ………………嗚呼、無情。



――――――――――



 一方、先程の白い世界。


 老人たちが肩を合わせながら、下界を見下ろす。


「……っかしいのう、不運を緩和するために幸運を授けたのじゃが」

「それすら上回るほどの巻き込まれ体質ということか……?」

「とは言え、ワシらが手を出せるのはこの天上にいる時だけじゃし」

「後は……見守ることしか出来んのう」

「そうじゃな、酒とツマミでも用意するか」


 まるで野球中継の観戦でもするかのような気楽さで見られていることを。


 あたしは気付ける由も無かった。

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